煖爐ストーブ)” の例文
新字:煖炉
『書いてると頭がグルグルして來ましてねす。』と煖爐ストーブの方へ歩き出して、大袈裟に顏を顰蹙しかめて右の手で後腦を押へて見せた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其の後の煖爐ストーブには、フツ/\音を立てなが石炭がさかんに燃えてゐる。それで此の室へ入るとくわツと上氣する位あツたかい。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
廣漠とした廣間ホールの中で、私はひとり麥酒ビールを飮んでた。だれも外に客がなく、物の動く影さへもない。煖爐ストーブは明るく燃え、ドアの厚い硝子を通して、晩秋の光が侘しく射してた。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
しばらく煖爐ストーブはた烟草たばこかしてつてゐるあひだに、宗助そうすけ自分じぶん關係くわんけいのないおほきな世間せけん活動くわつどう否應いやおうなしにまれて、やむとしさなければならないひとごとくにかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
室内煖爐ストーブの瓦斯の焔は青く燃え、熱気になれない平一郎は眩暈めまいを起こしそうでならなかった。彼はこの豪奢な生活の中に悠々と寝そべって自分に肉迫する巨人をじっと睨みつけていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
編輯局には、室の廣さに釣合のとれぬ程大きい煖爐ストーブがあつて、私は毎日此煖爐ストーブの勢ひよく燃える音を聞き乍ら、筆を動かしたり、鋏と糊を使ふ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「風早さん、何んですな。」と若い職員は、窓を離れて、煖爐ストーブの方へ歩寄りながら、「近頃は例の、貴方の血のかてだとか有仰おツしやつた林檎りんごあがらんやうですな。」
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
煖爐ストーブは冷くなつて居た。うそ寒い冬の黄昏が白い窓掛カーテンの外に迫つて居て、モウ薄暗くなりかけた室の中に、種々器械の金具が侘し氣に光つて居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
氣が拔けた樣に懵乎ぼうつとして編輯局に入ると、主筆と竹山と、モ一人の洋服を着た見知らぬ男が、煖爐ストーブを取圍いて、竹山が何か調子よく話して居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分は此學校の一年生の冬、百二十人の級友に唯二つあてがはれた煖爐ストーブには、力の弱いところから近づく事も出來ないで、よくこのかまどの前へ來て晝食のパンを噛つた事を思出した。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ト、八戸君も小松君も、卓子テーブルから離れて各々めい/\自分の椅子を引ずつて煖爐ストーブ周邊あたりに集る。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
外勤の記者が、唇を紫にして顫へ乍ら歸つて來ると、腰を掛ける前に先づ五本も六本も薪を入れるので、一日に二度か三度は、必ず煖爐ストーブが赤くなつて、私共の額には汗が滲み出した。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)