点滴したた)” の例文
旧字:點滴
とその塩瀬より白い指に、汗にはあらず、紅宝玉ルビイ指環ゆびわ点滴したたるごときなさけの光を、薄紫の裏に包んだ、内気な人の可懐なつかしさ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに休む内に、怪しき気のこと、点滴したたる血の事、就中なかんずく、姫の数の幻に一人多い事が、いつとなく、伝えられて、はげしく女どもの気を打った。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気のせいで、浅茅生を、縁近えんぢか湧出わきでる水の月のしずく点滴したたるか、と快く聞えたのが、どくどく脈を切って、そこらへ血が流れていそうになった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに紅梅の風情は無いが、姿見に映る、江一格子えいちごうしの柳が一本ひともと。湯上りの横櫛は薄暗い露地を月夜にして、お孝の名はいつも御神燈ごじんとうに、緑点滴したたるばかりであった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白襯衣君がパッとうけて、血の点滴したたるばかりに腕へめて抱きましたが、色の道には、あの、スパルタの勇士のおもむきがありましたよ。汽車がまだとまらないうち早業はやわざでしてなあ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯気が天井から雫になって点滴したたるのではなしに、屋根の雪が溶けて落ちるような気勢けはいである。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清らかなきものを着、あらたくしけずって、花に露の点滴したたよそおいして、馬に騎した姿は、かの国の花野のたけを、錦の山の懐にく……歩行あるくより、車より、駕籠かごに乗ったより、一層鮮麗あざやかなものだと思う。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自然の露がその唇に点滴したたらなければ点滴らないで、その襟の崩れから、ほんのり花弁はなびらが白んだような、その人自身の乳房から、冷い甘いのを吸い上げて、人手はらないでも、活返いきかえるに疑いない。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
機械口がゆるんだままで、水が点滴したたっているらしい。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
炬燵の上に水仙が落ちて、花活はないけの水が点滴したたる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)