澄明ちょうめい)” の例文
これは秋の水蒸気の少ない空気の澄明ちょうめいな空の或現象を描いたもので、晴れ渡った青い秋の空にも少しばかりの白い雲がある。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
診察着のポケットに両手を突込んだまま、依然として基督キリストじみた憂鬱な眼付で見下しつつ、静かな、澄明ちょうめいな声で答えた。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旧教のからが脱けきれないのか、研鑽けんさんが浅いのか、とにかく、肚の底まで、念仏そのものに、澄明ちょうめいになりきれない者たちだった。善信は、心のうちで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは見たところ、黄金おうごんの形は一向に無くて、澄明ちょうめいな液体に過ぎなかったが、しかし本当は九万円の黄金が、この液体の中に溶けこんでいるのだった。それは何故か?
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは舷檣にりかかりながら、周囲にひろがっている大氷原に、今しも沈もうとしている太陽の投げる澄明ちょうめいな光りを心から感歎して眺めていると、その夢幻の状態から
奇怪な神秘の顕現けんげん慄然りつぜんとしながら、今、彼の魂は、北国の冬の湖の氷のように極度に澄明ちょうめいに、極度に張りつめている。それはなおも、埋没まいぼつした前世の記憶の底を凝視ぎょうしし続ける。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また子を産んで、水を更えた後のの色のように彼女の美はますます澄明ちょうめいと絢爛を加えた。復一が研究室に額にして飾っておく神魚華鬘の感じにさえ、彼女は近づいたと思った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その声は澄明ちょうめいで、鉱物音を交え、林間に反響しているところなどは、あるいは人工的のもののような気もするが、よくよく聴くと、何か生物いきものの声帯の処をしぼるような肉声を交えている。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
谷の流れが澄明ちょうめい、底石の姿がはっきりとなる、朝と夕べのまずめであろう。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
いやそうしてその生命と希望をも越えて、いよいよという最期にいたるもこれに乱されない澄明ちょうめいなものにまで、天地と心身をひとつのものに観じる修行でもあった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その指す方には、空気のない澄明ちょうめいなる空間をとおして、新宇宙艇の雄姿ゆうしが見えた。「誰か、艇内からピストルをはなったよ。撃たれた方が、いま砂地に倒れちゃった。誰がやられたんだろう」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と思うと、忽ち一片の雲だにない澄明ちょうめいの青空に、飽くまであざらかなその姿容しようを示す日もある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここまでは澄明ちょうめいを持ちこたえて聖域へじのぼる一心に何ものの障碍しょうげもあらじと思い固めて来た決心も、いったん心の底に響きをあげて埋地うめちのような陥没かんぼつを見てしまうと
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の肉眼には見えない微細なかびや虫やちりほこりがもし見えたら、その人間の不幸であるように——彼の澄明ちょうめいな頭脳には、余りにも、周囲の音なきうごきや闇の争いまでが見えすぎて
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ。むずかしい、がまた、やさしいともいえる。心さえ澄明ちょうめいにしておればよいのだ、妄想なく。——それゆえに、他の士卒には、命じておかれぬ。しばしだが、そちに代らせておくわけじゃ」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
澄明ちょうめいな頭脳はそのいうことばの適切と冷静がよく証拠だてていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)