ただ)” の例文
今までは全く他人本位で、根のないうきぐさのように、そこいらをでたらめにただよっていたから、駄目だめであったという事にようやく気がついたのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
闇をただよってくる血の香がプーンとおもてつ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄さんの言葉はいかにも論理的に終始を貫いて真直まっすぐに見えます。けれども暗い奥には矛盾がすでにただよっています。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
話しかけられた客はむしろ真面目まじめな顔をして、「なるほど」と受けていたが、自分はおかしくてたまらなかった。さみしそうな兄のほおにも笑のうずただよった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神さんは多少心元ない色をふくろのような丸い眼のうちただよわせて出て行った。それから一週間ほどっても森本はまだ帰らなかった。敬太郎も再び不審をいだき始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二三日前にさんちまえからもうおいでだろうと思って、心待こころまちに御待申しておりました」などと云って、眼のふち愛嬌あいきょうただよわせるところなどは、自分の妹よりもひんいばかりでなく
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は二日酔ふつかよいの眼と頭をもって、かいこの糸をくようにそれからそれへと出てくるこの記念かたみかず見つめていたが、しまいには眼先にただようふわふわした夢の蒼蠅うるささにえなくなった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は徳川時代の湿しめっぽい空気がいまだにただよっている黒い蔵造くらづくりの立ち並ぶ裏通に、親譲りの家を構えて、敬ちゃん御遊びなという友達を相手に、泥棒ごっこや大将ごっこをして成長したかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)