淳朴じゅんぼく)” の例文
ですがごく質素だということは、謙遜けんそん深い性質や淳朴じゅんぼくな趣きを与える原因になります。いわば貧しさの美しさとでも申しましょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
農村は淳朴じゅんぼくだという奇妙な言葉が無反省に使用せられてきたものだが、元来農村はその成立の始めから淳朴などという性格はなかった。
続堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
話は途絶え勝で、フリント君は大っぴらに欠伸をした。気の置けない小都会の世話役らしいこの男の淳朴じゅんぼくさがフリント君の気に入った。
夜汽車 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
城内にたてこもった農民は、日頃から宗治をしたっている善良淳朴じゅんぼくな民であり、部落にのこっている者の多くは、素質のわるい怠け者か
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の意見などと云うものは持ち合せない淳朴じゅんぼく好々爺こうこうやのようであるが、母親と云う人は父親よりは大分しっかりしたところがあるらしい。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
淳朴じゅんぼくを旨とし清潔を貴び能く礼譲の道を修め、主客応酬の式すこぶる簡易にしてしかもなお雅致を存し、富貴も驕奢に流れず貧賤も鄙陋ひろうに陥らず
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
異性に対する淳朴じゅんぼくな信頼を失ってさっぱりとあきらむる心は決して無代価で生れたものではない。「思ふ事、叶はねばこそ浮世とは、よく諦めた無理なこと」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
結婚というものはごく打ち解けたおおやけの祝いであり、淳朴じゅんぼくな祝宴は家庭の尊厳を汚するものではなく、たといそのにぎわいは度を越えようと、みだらなものでさえなければ
私の部屋主はまったく淳朴じゅんぼくな人で——私はここで彼女の名前を尊敬をこめて申上げておきますが、彼女はグルゥバッハ夫人と言うのです——このグルゥバッハ夫人さえも
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
淳朴じゅんぼくな長屋の人達は、先生に御厄介をかけているというので、芋が煮えたといっては持ってくるしぎはぎだらけのどてらを仕立ててささげてくる者もあれば……早い話が
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
延岡は僻遠へきえんの地で、当地に比べたら物質上の不便はあるだろう。が、聞くところによれば風俗のすこぶる淳朴じゅんぼくな所で、職員生徒ことごとく上代樸直じょうだいぼくちょくの気風を帯びているそうである。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一の曲は、恋し合った若い夫妻の落ち着いた淳朴じゅんぼくな幸福を、そのやさしい愛欲や、その未来にたいする信頼などを、表現したものだった。第二の曲は、子供の死に関する悲歌エレジーだった。
山間の僻村へきそん、人皆淳朴じゅんぼくで、休んだ大黒屋旅館も気持のいい家であった。
いったい、芝居だとか、写し絵だとかいうものを見せるのは、淳朴じゅんぼくなる気風を害するものだから、今後一切あんなものは松本の市中へ足を入れさせないことにしたらどうだ、と提案する者もある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、淳朴じゅんぼくな仏師が、ややどもって口重く、まじりと言う。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
農村は淳朴じゅんぼくだという奇妙な言葉が無反省に使用せられてきたものだが、元来農村はその成立の始めから淳朴などという性格はなかった。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何も朝鮮と歴史のつながりがあったのではなく、全く山国の生活が淳朴じゅんぼくで自然で、気持ちにも似通にかよった点が互にあるからだと思われます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
淳朴じゅんぼくな土民のうちにもまた乱世に乗じて一ト儲けを賭ける野性がいなくもないのであった。——これが土地ところに詳しい案内人であったとみえる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淳朴じゅんぼくな田舎の人は、自分の所のものはおくれていて悪いものだと思い込んでいるのである。ただこういう錯誤は別として、塗りの手堅いことには一驚を喫した。かなり安い椀にも随分手をかける。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして農村は淳朴じゅんぼくだなどと云って、疑ることなどは金輪際ない。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)