淡々あわあわ)” の例文
しかるに壮年の人よりこの涙を誘うもののうちにても、天外にそびゆる高峰たかねの雪の淡々あわあわしく恋の夢路をおもかげに写したらんごときにくものあらじ。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かれはその淡々あわあわしい夢を懐に抱いて温めていたのである。それが習慣となったが、別に気にも留めないでいると、体のどこやらがむずむずしてくる。
(なぜ一所に死ぬとは言ってくれない。愛情というものは、そんな淡々あわあわしいものではない。)
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
河から夜霧が淡々あわあわ立ち始めていたので歩行はあまり楽ではなかった。けれどもブルブルふるえているガロエイ卿の先導で、彼等はやがて草地の中に横たわっている死体を見付け出した。
心なき者が淡々あわあわしく外からながめても、是にはたしかに見馴れない人生の情景がある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おりから淡々あわあわしいつきひかり鉄窓てっそうれて、ゆかうえあみたるごと墨画すみえゆめのように浮出うきだしたのは、いおうようなく、凄絶せいぜつまた惨絶さんぜつきわみであった、アンドレイ、エヒミチはよこたわったまま
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
葉子はいたずらばかりでなく、この青年に一種の淡々あわあわしい愛を覚えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もっとも娘のお露に対しては淡々あわあわしい恋を感じていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その令嬢の淡々あわあわしい心持を思い出していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
然しその影の淡々あわあわしいのを彼の心が見た。
恩人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
地平線の上に淡々あわあわしい雲が集まっていて雲の色にまがいそうな連山がその間にすこしずつ見える。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それで何となく穏やかな淡々あわあわしい色を帯びている、そこで蒼空が一段と奥深く青々と見える。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)