洪水でみず)” の例文
干潮かんちょうの時は見るもあわれで、宛然さながら洪水でみずのあとの如く、何時いつてた世帯道具しょたいどうぐやら、欠擂鉢かけすりばちが黒く沈んで、おどろのような水草は波の随意まにまになびいて居る。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お父様の力で、今までの洪水でみずも出なくなり、沼や河原ばかりだったこれだけの広い地面から、苗の青い風がそよそよ吹くようになりました」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
洪水でみずの土地を耕せば、洪水は土地に
灰汗あく洪水でみず胸底むなぞこ
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
しかのみならず、五ふう、まま洪水でみずが襲って、せっかくこれまでにきた御経営も、一夜に泥の海とすごときおそれすら、なきにしもあらずです
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一体、ここはもと山の裾の温泉宿ゆやどの一廓であった、今も湯の谷という名が残っている。元治年間立山に山くずれがあって洪水でみずの時からはたとかなくなった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洪水でみずには荒れても、稲葉いなばの色、青菜の影ばかりはあろうと思うのに、あの勝山かつやまとは、まるで方角が違うものを、右も左も、泥の乾いた煙草畑たばこばたけで、あえぐ息さえ舌にからい。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
激しく雨水の落としたあとの、みぎわくずれて、草の根のまだ白い泥土どろつち欠目かけめから、くさびゆるんだ、洪水でみずの引いた天井裏見るような、横木よこぎ橋板はしいたとの暗い中を見たがなにもおらぬ。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祝儀らしい真似もしない悲しさには、やわらかかゆともあつらえかねて、朝立った福井の旅籠はたごで、むれぎわの飯を少しばかり。しくしく下腹の痛むところへ、洪水でみずのあとの乾旱からでりしんにこたえた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「気をつけておいでなせえましよ。」……なわては荒れて、洪水でみずに松の並木も倒れた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)