汽船ふね)” の例文
「あなた方が揃ひも揃つてお説教をして下さらないとなると、この汽船ふねには神様のお慈悲は先づないものと思はなくちやなりません。」
海は靄ではつきりしないが、巨きな汽船ふね達の影だけは直ぐに判る。時々ボー/\と汽笛が響いて來る。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
港の中には汽船ふね二艘にはい、四つ五つの火影ほかげがキラリ/\と水に散る。何処ともない波の音が、絶間たえまもない単調の波動を伝へて、働きの鈍り出した渠の頭に聞えて来た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それに二、三等にも山持ち、汽船ふね持ち、芸術写真のKさん、小学校長、学生、西洋画家、宿屋の主人、等の種々雑多の階級の人たちが全国から三百幾人と集まったのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
下女「これは有難うございます、まア御緩ごゆっくりおいでなせえましよ、滅多に汽船ふねは来ませんから」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「だって君、この汽船ふねはけさ九時に出港するんだという話だったが、ほら、もう十一時になるというのにいっこう出る気配がないじゃないか。だからもしやガソリン切符が……」
地球を狙う者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
現今いまほどすつかり工場町こうぢやうまちになつてしまはないで、松林に梅雨つゆの雨が煙り、そのすぐ岸近くを行く汽船ふねの、汽笛の音が松の間をぬつて廣がりきこえるほど、まだ閑靜しづかだつた時分、ある家の塀の中に
桑摘み (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
こんな天気では、汽船ふねはとても錨地までははいるまいという話だった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『その天祥丸と言う汽船ふねは、何処どこからやって来たんです?』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
時は來たり 時は去る 沖渡る汽船ふねは遠音に
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
・しらなみ、ゆうゆうと汽船ふねがとほる
行乞記:11 大田から下関 (新字旧仮名) / 種田山頭火(著)
『ウム、大けな汽船ふねぢやごたるネ』
金比羅参り (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
そして今日———汽船ふね
同志下司順吉 (新字新仮名) / 槙村浩(著)
『昨日君の乘つて來た汽船ふねは、』と、男は沖を見た儘で口を開く。『何といふ汽船だツたかね。』
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
汽船ふねが父島まで行きつく以前において、すでに僕は東京へかえって銀座を散歩してみたい気持に襲われ、そこからこっち、ずっと元気をなくしていたが、いまこうした父島でもって
地球を狙う者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まったく汽船ふねの旅はいいなと思う。ことに夏の海上くらい爽快なものはなかろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
布卷吉のいとまを貰って、川蒸汽に乗りまして足利へ帰るのでございますが、此の汽船ふねへ再び橋本幸三郎が乗合せるのも妙な訳で、上州の川俣かわまた村と云う処で筏乗の市四郎に会いますと云う
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やれやれ、なんということだ」とサモイレンコはぼりぼりやりながら、歎息した、「うとうとっとしかけたと思うと汽笛だ。汽船ふねがはいったなと思っていると、今度は君だ。……沢山要るのかい?」
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「あああれは、汽船ふねの気分——を出すためとか申しまして」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
汽船ふねはこの島を夜半につ。それまで汐を待つのである。
やれやれ汽船ふねは出てしまつた
南窗集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
と考へて来た時、ポツチリとした沖の汽船ふねが、どうやら少し動いた様に思はれた。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「おいボーイ君。この汽船ふねは、ガソリンの切符をなくしでもしたのかね」
地球を狙う者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちょうど、同時になるでしょうね。それとも汽船ふねの方が遅いかな。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
幸「おい/\汽笛が聞えるようだぜ、汽船ふねが来たんじゃアないか」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
汽船ふねは此の島を夜半につ。それ迄汐を待つのである。
……自分から言つては可笑をかしいが、買つた時は——新しい時は見事でしたよ。汽船ふねで死んだ伜が横浜から土産に買つて来て呉れたのでな。羅紗ラシヤは良し——それ、島内といふ郡長がありましたな。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この汽船ふねおほき煙筒けぶりなびき渡島をしまの子らは此方こなた見てあらむ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かき坐り仰げば巨き帆ばしらなり我この汽船ふねをひたに頼まむ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
韃靼の海阪うなざか黒しはろばろと越えゆく汽船ふねの笛ひびかせぬ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)