歯軋はぎし)” の例文
旧字:齒軋
歯軋はぎしりをかんだが、力の相違はぜひもなく、りゅうと、しごきなおしてくる孫兵衛の銀蛇ぎんだに追われて、タタタタタ……と十歩、二十歩。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、歯軋はぎしりをはじめ、があと大きないびきをかきはじめた。気がつくと彦太郎は小高い丘の上に天野久太郎と二人で立っている。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
もう何時なんじだろうとへやの中を見廻すと四隣はしんとしてただ聞えるものは柱時計と細君のいびきと遠方で下女の歯軋はぎしりをする音のみである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でげすが何うも未練は残っている。時ともすると根岸のお嬢さんのことを思い出し、歯軋はぎしりいたしてくやんでおりました。
そして山谷は、お君と安二郎にその絵を結びつけ、口に泡をためてみだらな話をした。いきなり、豹一はぎりぎり歯軋はぎしりし、その絵を破ってしまった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ウヌ、畜生畜生! と歯軋はぎしりして猛りたっている夫人と、税関吏とが二、三人の探偵によって、外へ曳き出される。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ボルの仲間にのめのめとリン病をなおして貰ったとあっては、胸糞が悪いと俺は歯軋はぎしりをした。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
が親分さん、これが仲間や他人なら、痩我慢やせがまんも申しますが、親分の前で、体裁の良いことを言っても、何にもなりません——どんなに歯軋はぎしりしても、三村屋は今日限りでございます。
それを取上げてしまったので有った。一体何寺の何んという坊主だろう。憎さも憎しと竜次郎は、歯軋はぎしりをして口惜しがった。併し新利根川の堀割を隔てているのて、如何どうする事も出来なかった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
河は息切いきぎれ、歯軋はぎしりし、そが蒼曇る背をのたくらし
藤波は、キリキリと歯軋はぎしりをして
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いやいや、わっしや妹の歯軋はぎしりはまだのこと、あなたに捨て残されたお千絵様の嘆きよう……アア思いだしてもお気の毒、まったく罪でございますぜ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この恥知らず……貴方は到頭たくらんだのですね! 企んだのですね!」と妻は歯軋はぎしりせんばかりに身悶みもだえした。急いで身を翻すと今度は枕許の卓上電話を取り上げた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
私はいやもう、踏んだりったりのさんざんの目に会わされているのだった。だが、そんな情けない夢は、鮎子に逃げられた私の無念の歯軋はぎしりを現わしているのであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
歯軋はぎしりをするような声をだした。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ええ、これほどの手配りを破られたか」と、歯軋はぎしりをした天堂一角、樫柄かしえの槍を抱えなおして、疾風のごとく追いかけたが、その寸隙すんげきに十けんほどの隔りができていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は、歯軋はぎしりをして
「何も怖れ入る事はねえ、ほんとだ、博奕をやるくらいな量見のくせに、取られたからって、餌乾えぼしになったキリギリスみてえに、いやにひッそりして歯軋はぎしりを噛んでる奴があるものか」
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まろびながらも歯軋はぎしりして、兄の足へしがみつく。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)