榾火ほだび)” の例文
太陽はだいぶ西に傾いて、淡い陽脚ひあしを斜めに投げだしていた。緑の新芽は思い思いの希望を抱き、榾火ほだびはとっぷりと白い灰の中に埋もれていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
爐の榾火ほだびの周圍には蠑螺が幾つも灰の中に立てられて、ふたを取つた所へ味噌を載せたままぐつ、ぐつと煮えてゐる香りが、妙に一行の男達の食欲をそそりました。
初島紀行 (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
C—家の内儀の手紙を渡し、一泊を請ひ、直ぐ大圍爐裡の榾火ほだびの側に招ぜられた。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
この夜も六七人の子供がみんな大きな周囲まわりに黙って座りながら、鉄鍋の下の赤く燃えている榾火ほだびいじりながらはなしている老爺おやじ真黒まっくろな顔を見ながら、片唾かたずを呑んで聴いているのであった
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
「気ちげえの、普賢菩薩ふげんぼさつなら、正気のすべたと、比べものにゃあならねえ。ふ、ふ、ふ。こいつあ馬鹿におもしろくなったぞ。ねえさん、さあ、炉の榾火ほだびに、おあたんなせえと言ったら——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私たち四人——人夫を合せて八人——偃松はいまつ榾火ほだびに寒さを凌いで寝た。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
もてなしは門辺かどべ焚火たきび炉に榾火ほだび
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼等父娘おやこはちらちらと崩れかかる榾火ほだびを取り巻いて、食後のいこいを息ずいていたのであったが、菊枝は野を吹く微風になぶられて、ゆれる絹糸のもつれのような煙を凝視みつめて
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
榾火ほだびはパッとひとしきり燃え上って、うしろの灰色の壁だの、黒い老爺おやじの顔を、赤く照すのであった、田舎のことでもあるし、こんな晩なので、よいから四隣あたりもシーンとして、折々おりおり浜の方で鳴く鳥の声のみが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
とろとろと榾火ほだび燃えつつわが寒き草鞋の泥の乾き来るなり
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
榾火ほだびるゝ女はかはりをり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
祖父は炉端ろばたで、向こうずね真赤まっかにして榾火ほだびをつつきながら、何かしきりに、夜かし勝ちな菊枝のことをぶつぶつ言ったり、自分達の若かった時代の青年男女のことをつぶやいていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
妻のおきんは榾火ほだびを突つきながら言った。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)