某夜あるよ)” の例文
その勇士小島勇次郎が戦死してから半ヶ月ばかり経ってのこと、その生家では年とった母親が、某夜あるよ突然寝床の上に飛び起きて叫んだ。
母親に憑る霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは某夜あるよのことであったが、その当時はまだ電灯の往きわたっていない時で、二人は吊洋灯つりらんぷの傍で児の対手あいてになっていた。
前妻の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某夜あるよ、某運転手が護国寺の墓地を通っていると、白い小犬を抱いた女が来て車を停めた。そこで運転手は女の云うままに逢初あいそめ橋まで往くと、女が
白い小犬を抱いた女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは某夜あるよ、夫婦で床に就いて、細君は早く眠り、寛一郎一人がうつらうつらしていると、どこからともなく火の玉が来て、蚊帳かやの上を這いだした。
掠奪した短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某夜あるよ狸がいつものように庄造の傍で遊んでいるうちに戸外は大雪になった。庄造は積った雪を見て狸を帰すのが可哀そうになった。で、狸の頭を撫でながら
狸と俳人 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人のまじわりは又三年ばかり続いた。そして、その年の春であった。某夜あるよ水の男は勘作が寝ている枕頭まくらもとへ来た。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
万彦は某夜あるよ尊に伴れられて平生いつものように熊山へ往って音楽を聞いた。ところで、その晩の音楽の中に一つつたない音楽があった。万彦は不審に思うて尊にいた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某夜あるよ、築地の待合まちあいへ客に呼ばれて往った某妓あるおんなが、迎えの車が来ないので一人で歩いて帰り、釆女橋まで往ったところで、川が無くなって一めんにくさ茫茫ぼうぼうの野原となった。
築地の川獺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
隣村の伊太郎と云う血気ざかり壮佼わかいしゅが、某夜あるよ酒をひっかけて怪物の探検に来たが、その途中どこからともなくこいしが飛んで来て、眉間に当って負傷したので蒼くなって逃げ帰った。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小説家の山中峯太郎君が、広島市の幟町のぼりまちにいたころのことであった。それは山中君がまだ九つの時で、某夜あるよ近くの女学校が焼けだしたので、家人は裏の畑へ往ってそれを見ていた。
天井からぶらさがる足 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日本橋本町ほんちょう三丁目一番地嚢物ふくろもの商鈴木米次郎方のじょちゅうおきんと云うのが、某夜あるよ九時すぎ裏手にある便所へ入ろうとして扉をあけると、急に全身に水を浴びせられたようにぞっとして
簪につけた短冊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明治——年六月末の某夜あるよ、彼は夜のふけるのも忘れてノートと首っぴきしていた。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
勘作と水の男は、又三年ばかりのまじわりを続けたが、某夜あるよ水の男は又勘作に云った。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また某夜あるよなどは、平太郎が寝ようと思って戸じまりをして室へ帰って来ると、孕み女が醜悪なさまをしてへやの真中に仰向けになっていた。剛気な彼は笑いながら女の腹の上に腰をかけた。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
詩人啄木ので知られている函館の立待岬たてまちざきから、某夜あるよ二人の男女が投身した。男は山下忠助と云う海産問屋の公子わかだんなで、女はもと函館の花柳界かりゅうかいで知られていた水野よねと云う常磐津ときわずの師匠であった。
妖蛸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところで某夜あるよ、寝かしていた女の児が顔でもつねられたか、耳でもひっぱられたかと思うように大声で泣きだしたので、眼を醒してみると、小供の枕頭から煙草の煙のかたまったような小坊主が
妖怪記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某夜あるよ平生いつものようにその小柄な男がやって来て二人で酒を飲みだした。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私も本年六月の某夜あるよ浜町の支那料理で親しく喜多村さんの口から聞いて、非常に面白いと思ったから、其のうけうりをやってみることにしたが、此の話の舞台は大阪であるから、話中上場の人物は
とんだ屋の客 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、某夜あるよ女が男の耳に囁くと、男は神経的に輝く女の眼を見返した。
雀の宮物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)