板庇いたびさし)” の例文
「さあ、あたり。さぞ御寒かろ」と云う。軒端のきばを見ると青い煙りが、突き当ってくずれながらに、かすかなあとをまだ板庇いたびさしにからんでいる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さう言ひ乍ら平次は窓の外を覗きましたが、板庇いたびさしがひどく腐つて居て、曲者がこれを渡つて窓へ近づいた樣子もありません。
例の新築された会所のそばを通り過ぎようとすると、表には板庇いたびさしがあって、入り口の障子しょうじも明いている。寿平次は足をとめて、思わずハッとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と思うと、それがまたつぶてを投げるように、落として来て、太郎の鼻の先を一文字に、向こうの板庇いたびさしの下へはいる。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とある雨の夜、父は他所の宴会に招かれてけるまで帰らず、離れの十畳はしんとして鉄瓶のたぎる音のみえる。外には程近い山王台さんのうだいの森から軒の板庇いたびさしを静かにそそぐ雨の音も佗しい。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
陣屋の板庇いたびさしから白い月がさしている。秀吉はそういいながら湯鳴ゆなりする釜の前にしばしかしこまっていた。陣中でも折々は茶に集まったが、かくの如く秀吉が素直すなおせきとして見せたことはない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春雨や音こゝろよき板庇いたびさし 蘆角
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
小鳥来る音うれしさよ板庇いたびさし
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
小鳥来る音嬉しさよ板庇いたびさし
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
板庇いたびさしに人の踏んだ跡があるか、この下の大地に樣子の跡がありさへすれば曲者は此處から忍び込んで、寢酒で熟睡して居る主人祐玄を絞めに行つたに違ひありません。
三段登って廊下から部屋へ這入はいろうとすると、板庇いたびさしの下にかたむきかけていた一叢ひとむら修竹しゅうちくが、そよりと夕風を受けて、余の肩から頭をでたので、すでにひやりとした。椽板えんいたはすでにちかかっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小鳥来る音うれしさよ板庇いたびさし
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
小鳥来る音嬉しさよ板庇いたびさし
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しばらくすると、平次は月の光に白々と見える、右手の長屋の板庇いたびさしの上を指しました。
といふのは、洒落れた板庇いたびさしち果てて、蒼然とこけが蒸して居るので、人間が踏めば一とたまりもなく崩れ落ちるに違ひなく、第一その上を踏めば足跡が着かないわけはないのです。