暗々あんあん)” の例文
無情な天は、そこからあがる黒煙に、陽を潜め、月を隠し、ただ暗々あんあん瞑々めいめい、地上を酸鼻さんびにまかせているのみであった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実を云うと、津田は腹のうちではるかそれ以上気にかかる事件をかえしていたので、彼は風呂場へ下りた時からすでにある不足を暗々あんあんのうちに感じなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一、美は比較的なり、絶対的にあらず。ゆえに一首の詩、一幅いっぷくの画をとって美不美を言ふべからず。もしこれを言ふ時は胸裡きょうりに記憶したる幾多の詩画を取て暗々あんあんに比較して言ふのみ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
行く手は暗々あんあんたる闇であったが手に松火たいまつを持っているので道を間違える心配はない。
そして若しその時、親父が下の石に腰かけていたら、彼を殺すことが出来るだろう。そういう複雑な計画が、暗々あんあんの中に含まれていた。しかも、その悪だくみを、おれ自身さえ知らずにいたのだ。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洞窟はしだいに幅をひろげて、暗々あんあんと、不気味なやみをたたえていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
其雙眼は迫り來るこく暗々あんあんの夜に閉ぢぬ。 310
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
それはほどなく近づいた雷神らいじんたきのひびきである。暗々あんあんたるこずえから梢を、バラバラッと飛びかうものは、夜のゆめをやぶられたむささびか怪鳥けちょうであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは洞窟の内部であって、暗々あんあんとした闇であった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう考えてしのびこんだ胸中きょうちゅうだいねん、おのずからりんのごとく眼脈がんみゃくえあがっているので、暗々あんあんたる屋根やねうらのはりに、そのものすごい形相ぎょうそうをあおいだ蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとみはいつか闇になれたが、道は暗々あんあんとして行く手もしれない。冥府めいふへかよう奈落ならくの道をいくような気味わるさ。ポトリ、ポトリとえりもとに落ちてくるしずくのつめたいこと。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)