昔時せきじ)” の例文
しかして今日交戦国の蒙る経済上の損害は、経済の発達せるだけ、経済未発達の昔時せきじに比して、多大なることは言うまでもない。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
もし戻ってもそれは全く新なる形式内容を有するもので、浅薄せんぱくなる観察者には昔時せきじに戻りたる感じを起させるけれども、実はそうではないのであります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔時せきじの得意を夢み、油断していると、男子はその長所を失うて粗雑な荒くれ男のごときものとなり、さらに一歩を進めて道徳上に退化を来たしたならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こは大阪未決監獄入監中に起草せるものなりき。妾はここに自白す、妾は今貴族豪商の驕傲きょうごうを憂うると共に、また昔時せきじ死生を共にせし自由党有志者の堕落軽薄をいとえり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
縁起によれば、昔時せきじこの附近に上宮太子じょうぐうたいし創建と伝えらるる香薬師寺とよぶ寺があった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
わが邦にして昔時せきじの面目を一変したりとて、さまでいぶかるべきことにはあらざれども、その変化のあまりに快活にしてかつその方向の意外なる針路に向かってはしりたるの一点に関しては
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
けだし弓は昔時せきじにあつては神聖なる武器にして、戦場に用ゐらるるは言ふまでもなく、蟇目ひきめなどとて妖魔ようまはらふの儀式もある位なれば、金気きんき粛殺しゅくさつたるに取り合せておのずから無限の趣味を生ずるを見る。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
昔時せきじに於ける山中鹿之介坂田公時も山家育ちなり。現世に於ては、高木兼寛たかぎけんかん三浦謹之助みうらきんのすけ両氏の如き、最も深山の内にて粗食にて生長せるも、医門の大家たり。ああ自然たるや平均を怠らざるを感ぜり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
昔時せきじ 喜んで酒を飲み
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるいはその間、不思議に支那及び露西亜ロシアに両属の形を取った事、あたかも昔時せきじの我が琉球りゅうきゅうの如きものであったかも知らぬ。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
暴虎馮河ぼうこひょうがには孔子こうしくみせずといったが、世俗はいまだ彼らに敬服けいふくする。昔時せきじ、ローマ時代には徳という字と勇気という字とは二つ別々に存在しなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
本県の中学は昔時せきじより善良温順の気風をもって全国の羨望せんぼうするところなりしが、軽薄けいはくなる二豎子じゅしのために吾校わがこうの特権を毀損きそんせられて、この不面目を全市に受けたる以上は
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、昔時せきじの物語にもある通り、出来るだけの力をもってなるべく多く握らんとすれば、かえってわずかの分量しか手に入らぬ。やわらかく握るほうがかえって多く握れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)