早蕨さわらび)” の例文
道庵は早蕨さわらびのような手つきをして、盃を高くさし上げた姿を見ると、身ぶり、こわ色でごまかそうとするもののようにも見えるので
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
〽よし足引の山めぐり、四季のながめも面白や、梅が笑えば柳が招く、風のまにまに早蕨さわらびの、手を引きそうて弥生やよい山……
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今宵は、そなたの心づくしの肴で、酒も一入ひとしほ身にしみるわ。もう早蕨さわらびが、萠え始めたと見えるな。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
「遅くなりました」とぜんえる。朝食あさめしの言訳も何にも言わぬ。焼肴やきざかなに青いものをあしらって、わんふたをとれば早蕨さわらびの中に、紅白に染め抜かれた、海老えびを沈ませてある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
粲然ぱつとしたる紋御召のあはせ黒樗文絹くろちよろけん全帯まるおび華麗はなやかべにの入りたる友禅の帯揚おびあげして、びんおくれのかか耳際みみぎは掻上かきあぐる左の手首には、早蕨さわらび二筋ふたすぢ寄せてちようの宿れるかたしたる例の腕環のさはやかきらめわたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
山の井の下井にひたす早蕨さわらびは根にそろへたり笊を吊るして
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
早蕨さわらびの歌を法師す君に似ずよき言葉を
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しめの塩のからき早蕨さわらび 怒誰どすい
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
乱れ起る岩石を左右にめぐる流は、いだくがごとくそと割れて、半ばみどりを透明に含む光琳波こうりんなみが、早蕨さわらびに似たる曲線をえがいて巌角いわかどをゆるりと越す。河はようやく京に近くなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さもこそあれや、早蕨さわらび
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)