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さわらび
「遅くなりました」と
膳を
据える。
朝食の言訳も何にも言わぬ。
焼肴に青いものをあしらって、
椀の
蓋をとれば
早蕨の中に、紅白に染め抜かれた、
海老を沈ませてある。
粲然としたる紋御召の
袷に
黒樗文絹の
全帯、
華麗に
紅の入りたる友禅の
帯揚して、
鬢の
後れの
被る
耳際を
掻上ぐる左の手首には、
早蕨を
二筋寄せて
蝶の宿れる
形したる例の腕環の
爽に
晃き
遍りぬ。
山の井の下井にひたす
早蕨は根にそろへたり笊を吊るして