斟酌しんしやく)” の例文
今までの手口から見て、無耻むちで、殘酷で、手加減も遠慮もないところを見ると、どう斟酌しんしやくして考へても、人間らしい心の持主とは思へなかつたのです。
此方こつちの身にも成つて少しは斟酌しんしやくするが可いぢやないか。一文も費ひもせんで五百円の証書が書けると想ふかい
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
舞台で大勢に見せるものであるから、いかに実際だからと言つて、そこには多少の斟酌しんしやくがあつたものである。そんな露骨なことは舞台にはのぼせられないぢやないか。
社会と自己 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
こゝは英雄えいゆう心事しんじはかるべからずであるが、ぶちまけられるはうでは、なん斟酌しんしやくもあるのでないから、さかしま湯瀧ゆだき三千丈さんぜんぢやうで、流場ながしば一面いちめん土砂降どしやぶりいたから、ばちや/\とはねぶ。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『いゝや、辞令は未だ。もつとも義務年限といふやつが有るんだから、ただめて行く訳にはいかない。そこは県庁でも余程斟酌しんしやくして呉れてね、百円足らずの金を納めろと言ふのさ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けれども裁判長にはそれが何の斟酌しんしやくにも値するものでないと思はれた。切手が剥げて居つたか、剥いで取つたか。そんな詳しい事まで取調べて居る暇がないと裁判長は思ふのであつた。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
それは結婚と云ふことがあるからであらうと思ふがと、斟酌しんしやくをして居るやうな返事のしかたを弟はして居ました。しげるの懐疑はひかるのそれに比べられない程に根底が出来て居るらしいのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
つけられしかども一旦中山殿奉行所にて裁許さいきよの有りし事件ことがらなれば何と無く斟酌しんしやく有て暫時しばらくかんがへ居られしが又猶申さるゝは其折道十郎なる者吟味づめに相成りしわけには之なく牢死らうししたる故其儘に成りをりしなり存生ぞんしやうならば外に吟味の致し方も有りしならんしかるに只今の一言奉行所の不行屆ふゆきとゞきの樣に上の御政度せいど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「三輪の親分には、そんな斟酌しんしやくはありやしません。盛りの付いた狂犬やみいぬ見たいなもので、何處へ噛み付くか——」
「そんな斟酌しんしやくは止してくれ。仕事の上で、氣なんか惡くするものか」
「いや、もう、その斟酌しんしやくには及びません」