擬宝珠ぎぼうしゅ)” の例文
旧字:擬寶珠
「今、深田橋のたもとの蕎麦屋そばやで、酒を一合飲み、蕎麦を喰って擬宝珠ぎぼうしゅの方面へ立ち去った一名の浪人者がいるというらせだ。——すぐ来いっ」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵野に見るような黒土を踏んで、うら若いひのきの植林が、一と塊まりに寄り添っている、私たちの足許には釣鐘つりがね草、萩、擬宝珠ぎぼうしゅ木楡われもこうが咲く。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
眼を挙げて日本橋を見ると晴れた初夏の中空に浮いて悠揚と弓なりにかり、擬宝珠ぎぼうしゅと擬宝珠との欄干らんかんの上に忙しく往来する人馬の姿はどれ一つとして生活に自信を持ち
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その枝があつまって、中がふくれ、上ががって欄干の擬宝珠ぎぼうしゅか、筆の穂の水を含んだ形状をする。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
快活に、なにか西洋の歌らしいものを口吟くちずさみながら、擬宝珠ぎぼうしゅの屋根の方角へ、姿が消えた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ああいうからだをしてく歩かれたものだと思える位でした。どうするのかと見ていると、こんどは擬宝珠ぎぼうしゅのかげへ跼んで、すうと、蒼白い、まるで麻のように晒された手を伸しました。
不思議な国の話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
少しおくれて、童男どうだん童女どうじょと、ならびに、目一つの怪しきが、唐輪からわ切禿きりかむろにて、前なるはにしきの袋に鏡を捧げ、あとなるはきざはしくだり、巫女みこの手よりを取り受け、やがて、欄干らんかん擬宝珠ぎぼうしゅの左右に控う。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日本橋の図は中央に擬宝珠ぎぼうしゅそびやかしたる橋の欄干と、通行する群集の頭部のみを描きて図の下部を限り、荷船の浮べる運河をはさんで左右に立並ぶ倉庫の列を西洋画の遠近法にもとづきて次第に遠く小さく
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浜松城はままつじょうのお使者番ししゃばんは、満天まんてんほしにくるまれたかく尖端せんたん擬宝珠ぎぼうしゅのそばで、手放てばなしに大声あげて泣いていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一石いっこく橋を眼下に瞰下みおろしているが、江戸時代に、その一石橋の上に立って見廻すと、南から北へ架け渡す長さ二十八間の、欄干らんかん擬宝珠ぎぼうしゅの日本橋、本丸の大手から、本町への出口を控えた門があって
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「もうだめ! もうだめ! みんなの来ようがおそいから、わたしがここで一しょうけんめいにおさえていた咲耶子さくやこは、とうとう擬宝珠ぎぼうしゅにつないでおいたクロをうばって、あれあれ、あれ向こうへ——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
擬宝珠ぎぼうしゅ玉縄たまなわむすびつけ、ズル! ズルズルとつながってゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)