摩訶まか)” の例文
ここに演じまするは、当興行第一の呼び物、摩訶まか不思議の大魔術、座長欧米漫遊のせつ習い覚えましたる、美人解体術でございます。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その一見、平々凡々な、何んでもない出来事の連続のように見える彼女の虚構の裡面りめんに脈動している摩訶まか不思議な少女の心理作用の恐しさ。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いのり殺し、呪り生かし——のこの行事、毎年やる事ではあったが、それでも毎年、法力の摩訶まか不思議に、群集は酔ったように眼をすえていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知りばえのしない人間であつたら御互おたがひに不運とあきらめるより仕方がない、たゞ尋常である、摩訶まか不思議は書けない。
『三四郎』予告 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
平次に取つては摩訶まか不思議な時計の機構からくりよりも、その時計に附隨ふずゐして起つた、犯罪の方が大變だつたのです。
「さあ、鞄をここへ載せて……そしていよいよ赤見沢博士謹製きんせい摩訶まか不思議なる逸品いっぴんの拝観と行こうか」
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
摩訶まか般若波羅蜜多は、諸仏の母なり。四句の等を受持し、読誦どくじゅすれば、福寿を得ること思量すべからず。之を以て、天子念ずれば、兵革、災難、国裡こくりに入らず。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
これは摩訶まか不思議なことだからうっかりした事は言えぬとでもいった風に、声を低めたそうである。
そんな摩訶まか不思議なことのあるべきはずもないから、ここで嬢の質問の形が変ってくる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
手妻の一点張りで舞台みせを張ってみてえ気もあってひとつ根限り、幻妖げんよう摩訶まか不思議てえところを腕によりをかけて見せてえ気もちも大きにあるのだが、ついては、新奇のものをつくって
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これらにむかってわれわれが冬季常食する天下唯一の美味、摩訶まか不思議の絶味であるふぐの料理が、いささかの危険性なき事実を諄々じゅんじゅん力説してみても、その確実を容易に信じようとはしない。
河豚食わぬ非常識 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「もやもやもやと、もやつき渡る、朝霧の中へ、俄然——忽然として現れ出でたる旗印、地から降ったか、天から湧いたか、とんと判らん、摩訶まか不思議、あらら不思議に、妙不思議、奇怪奇手烈、テンツクテン——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
摩訶まか不思議の妖術をね」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
摩訶まか不思議の事件として当局を悩ましたが、判明したところによると、それは意外にも氷を積んだトラックのいたずらであった。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
摩訶まか不思議な大活躍を演ずる事に相成ましたので、つまり只今から御紹介致します空前絶後的な怪事件の真相と申しますのは
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
世の中という摩訶まか不思議な実態を、歴史として観、小説として人が読むおもしろさは、こんなところにあるのじゃないかと思っている。(二八・一・四)
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平生ふだん、私どもが読誦している『心経』には、『般若波羅蜜多心経』の上に、「摩訶まか」の二字があったり、さらにまた、その上に「仏説」という字があるということです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
万一もし正木博士の話が真実とすれば、やはりこの絵巻物から引き起された事件に相違ないので、結局するところ、一切の摩訶まか不思議を支配する中心的の魔力は
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何か「誰」と指摘できない摩訶まか不思議な素因がどこかに跳梁ちょうりょうしている気がしてならない。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この摩訶まか不思議を信じない訳には行かなかった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
元より大人同士の秘語を子供が正しく理解するわけでは決してないが、しかし成長期の児童という貪欲な肉塊のなかには、蠅取草の消化力みたいな摩訶まか不思議な作用が潜んでいるもののようである。
……のみならずその人間があくる朝眼を醒ますと、いつの間にやら元の木阿弥もくあみのケロリン漢に立ち帰って、そんな素敵な記憶の数々を、ミジンも脳髄に残していないというような摩訶まか不思議をあらわす。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)