摩耶夫人まやぶにん)” の例文
摩耶夫人まやぶにんもマリヤもこうして釈迦や基督を生みたもうたのである、という気持になって、上もない歓喜よろこびの中に心も体も溶けて行く。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「ああ、まだお娘御のように見えた、若い母さんに手をかれてお参りなさった、——あの、摩耶夫人まやぶにんの御寺へかの。」
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文答師は、母公御報恩のためならば釈迦像がよろしゅうございましょう、昔忉利天とうりてん摩耶夫人まやぶにんに恩を報ぜられた例がございます、と奏上した。そこで釈迦像にきまった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
家へ帰って、摩耶夫人まやぶにんの影像——これだとすみやかに説教が出来る、先刻さっきの、花御堂の、あかちゃんの御母ぎみ——頂餅いただきと華をささげたのに、香をたいて、それから記しはじめた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもゆきなすゆびは、摩耶夫人まやぶにんしろほそはな手袋てぶくろのやうに、まさ五瓣ごべんで、それ九死一生きうしいつしやうだつたわたしひたひそつり、かるむねかゝつたのを、運命うんめいほしかぞへるごとじつたのでありますから。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
伝え聞く、摩耶山忉利天王寺とうりてんのうじ夫人堂の御像おんすがたは、そのいにしえりょうの武帝、女人の産に悩む者あるをあわれみ、仏母ぶつも摩耶夫人まやぶにんの影像を造りて大功徳をしゅしけるを、空海上人入唐の時、我が朝にかしずき帰りしものとよ。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもその雪なす指は、摩耶夫人まやぶにんが召す白い細い花の手袋のように、正に五弁で、それが九死一生だった私の額にそっと乗り、軽く胸にかかったのを、運命の星をかぞえるごとくじったのでありますから。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)