振撒ふりま)” の例文
主人あるじに代って、店頭みせさきに坐ってお客にお世辞を振撒ふりまいたり、気の合った内儀かみさんの背後うしろへまわって髪をとりあげてやったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
就中なかんずく喫茶店は、貴婦人社会にさるものありとひとりたる深川綾子、花のさかりの春は過ぎても、恋草茂る女盛り、若葉のしずく滴たるごとき愛嬌あいきょうを四方に振撒ふりま
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又孫の一人も有らうと想はれる老夫人が済ました顔をしながら若い男と見ればコンフエツチを振撒ふりまいてく。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
女優は焼栗のやうに色の黒い王様の御機嫌を取らうとして、いろんな愛嬌を振撒ふりまいた。
いまなお消え残る一個の船燈を取るより早く、燈を砕き油を船中に振撒ふりまいて火を放てり、悪魔の舌のごとき焔は見る間に船中を這いまわり、続いて渦巻く黒煙とともに猛火は炎々と立ち昇る
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
本式にすれば清い布巾ふきん米利堅粉めりけんこ振撒ふりまいてそれで肉をよく包んで湯の中へ入れます。小さく切ったのは早く湯だりますけれども味が悪くなります。しかし急ぐ時は小さく切っても構いません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夜光虫の活動は益々さかんになって、海面は見渡す限り、波の動きにしたがって明滅する蛍光で青白く輝き、観測鏡で覗くとさらにその濃淡強弱の交錯がまるで無数の宝玉の砕片を振撒ふりまくかの様に見える。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黄金きんの油を振撒ふりまけば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
僕にもある婆さんが振撒ふりまいたから追掛けて行つて襟元へどつさり入れて遣ると「メルシイ」と礼を言はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と、お世辞を振撒ふりまいて呉れるのがある。
火の振撒ふりまく夏
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)