指端ゆびさき)” の例文
指端ゆびさきの痛くなるほど力を入れてそれをはずし、雨戸へ手をかけたが、得体えたいの知れない怪物が戸の外に立っているような気がするので、こわごわ開けた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは丁度ちょうど人間にんげん平地へいちけるとおなじく、指端ゆびさきひとれずに、大木たいぼくみきをばって、そらけてあがるのでございますが、そのはやさ、見事みごとさ、とてもふで言葉ことばにつくせるわけのものではありませぬ。
九兵衛は横から顔を持って往って一眼見た後に、膝を寄せて往って両手ですくい、それを右の指端ゆびさきに軽く撮んで行灯の戸を開けて灯火の光に透して見た。
蠅供養 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三左衛門はあっちこっちに石を置いている主翁の指端ゆびさきふるえを見ていた。それは主翁の神経的な癖であった。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
洋服の男が右の指端ゆびさきでテーブルの上を軽くたたいた。謙作のテーブルから離れて往きかけた女が足を止めた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁は枕頭まくらもとに坐った女房にり起されてやっと眼を覚したが、眠くて眠くてしかたがないので、伸ばした右の手の手首を左の指端ゆびさききながら寝ぼけ声を立てた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なんでもないことだ、君にこれでね」と、神中は右の手の指端ゆびさきを見せるようにした。そこには短い白い糸のようなものがあった。「これで、僕の左の人さし指を縛ってくれたまえ」
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新吉は右の指端ゆびさきを右の眼の傍へ持って往って、人さし指で目頭めがしらをちょとおさえた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老婆は歯の抜けた歯茎を見せながらコップを持って少年の傍へ往って、隻手かたて指端ゆびさきをその口の中へさし入れ、軽がると口をすこしひらかしてコップの血をぎ込んだ。少年は大きな吐息をした。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)