拱手きょうしゅ)” の例文
同じではない理由を云っても君侯の事だった、君言をもって、やらせておけというのでは老臣もさじを投げて拱手きょうしゅしているほかはない。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
いとしい恋人の五体が戦慄すべき極微物の為に、徐々にしかも間違いなく、蝕まれて行く姿を、拱手きょうしゅして見守らなければならなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
太平の天地だと安心して、拱手きょうしゅして成功をこいねがはいは、行くべき道につまずいて非業ひごうに死したる失敗のよりも、人間の価値ははるかに乏しいのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ポリネシア式の優柔不断が戦争を容易に起させないであろうことを唯一の頼として、拱手きょうしゅ傍観している外はないのか? 権力をつのは善い事だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかもあれほど太子を讃仰さんぎょうしたはずの諸臣のほとんどすべてが、遺族の全滅に直面してはただ拱手きょうしゅ傍観、入鹿の暴虐ぼうぎゃくを黙視していたのみであった。人心は無常である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
いまもしぼくらが水平線上に船隻せんせきを発見したとしても、拱手きょうしゅして見送るよりほかはない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
作家としての、悪い宿業しゅくごうが、多少でも、美しいものを見せられた時、それをそのまま拱手きょうしゅ観賞していることが出来ず、つい腕を伸ばして、べたべた野蛮の油手をしるしてしまうのである。
盲人独笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わが藩としても拱手きょうしゅ傍観はできません、すぐさま奉行所の人数を繰出して、この宿の見張りをさせましょう、あなたはゆっくり休息して下さい、その武芸者になにかあったら即刻お知らせを
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さかまく水勢をながめて、拱手きょうしゅ傍観のありさま。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「——うむ、それもよかろう。しかし仲達、蜀の衰亡を、ただ拱手きょうしゅして待つわけでもあるまい。汝にいかなる計があっていうか」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迷亭が帰ってから、そこそこに晩飯をすまして、また書斎へ引き揚げた主人は再び拱手きょうしゅしてしものように考え始めた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
模写してみたところで所詮しょせんははかない希望にすぎまい。今更どうにも補修出来かねるらしい。拱手きょうしゅ傍観してその崩壊を眺めているより他にすべはないのだ。しかしこれが壁画の運命であろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「孟達の反心は歴然。なぜ拱手きょうしゅして見ているか。直ちに上庸じょうよう綿竹めんちくの兵をあげて、彼の不義を鳴らし、彼の首を討ち取るべし」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何故、全軍を押し出して、敵を蹴ちらしてしまわぬのですか。この機を、拱手きょうしゅして眺めているようなことで、一軍の将といわれましょうや」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いまにして、荊州も取り給わず遅疑逡巡ちぎしゅんじゅん、曹操の来攻を、拱手きょうしゅしてここに見ているおつもりですか」と、ほとんど、玄徳の戦意を疑うばかりな語気で詰問なじった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上月城こうづきじょうを攻めたときなども、村重は前線にありながら、一方の山に陣したきり、戦機が熟して来ても秀吉から命令があっても、拱手きょうしゅして戦わなかったことなどもある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじや体面を考えると、限りなく不愉快になった。北陸の軍馬をすぐってここまで臨みながら、拱手きょうしゅして、秀吉の大活躍を眺めているごときは、真に、彼の耐えうることではない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、家康も、丘に立って、しばらく拱手きょうしゅしたまま、嘆称していたということである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拱手きょうしゅして傍観ぼうかんする? それも、友情としてしのびないではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)