拘束こうそく)” の例文
また、変位の程度が大に過ぎず四分の三全音くらいで自己に拘束こうそくを与えるところに「いき」の形相因が客観化されているのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
果然かぜん、列車が興安駅にくか著かないうちに、早くも警備軍の一隊がドヤドヤと車内に乱入すると、矢庭やにわに全員の自由を拘束こうそくしてしまった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうかも知れぬ」配所にいても、少しも配所にいるらしい拘束こうそくもうけなければ、不平も感じていない西仏の生活ぶりを、善信は心のうちで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際僕一身の希望から申せば、拘束こうそくなき自由に生活を喜び候えども、一家の事情を考え合わすれば、これもあまりわがまま過ぎる望みのように被存候ぞんじられそうろう。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
又歌ふべき内容にしても、これは歌らしくないとか歌にならないとかいふ勝手な拘束こうそくを罷めてしまつて、何に限らず歌ひたいと思つた事は自由に歌へば可い。
歌のいろ/\ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
またなぜ後代の人間がそれに拘束こうそくされねばならないのかということを、歴史的に実証することはできない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
男が伸々のびのび拘束こうそくなしに内側の生命をのばす間に、女は有史以来おさえためられてそれを萎縮いしゅくされてしまった。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そんなにも永い間、子供部屋へ拘束こうそくされてゐたので、朝食堂や食堂や客間は、そこへ侵入することが私を狼狽らうばいさせるほど、私にとつて恐ろしい場處となつてゐた。
犯罪の行われた現場げんじょうに遺留された犯人の所持品を犬に嗅がせると同時に食物を与えて条件反射を起さしめたならば、犯人嫌疑者が拘束こうそくされた場合、若し真犯人であるならば
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
幸福がこんなふうに拘束こうそくされていること、情況の恩恵がこんなふうに毎日きまって再びはじまること、これこそはまさしく、かれにこの滞留をとうとく思わせるものであり
私の執筆を拘束こうそくするようなややこしい注意など一言もおっしゃらなかったという一事である。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
散髪が終って、台の背が倒され、髭剃ひげそりが始まる。彼はすすけた天井をにらみながら、じっと辛抱していた。彼は床屋がきらいだ。一定時間拘束こうそくされるのが、いやなのである。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「それは人の自由を拘束こうそくするというもの。私はそういう決答は出来ない。」「そんならどうにか決答しろ。」「明朝あしたまで思案をさせて貰いたい。」「それはいけない。眠くても決答しろ」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それが少しでも道江を拘束こうそくすることになっては困るから、いちおうこの話は、打ち切ってもらいたい、という意味のことを書き、朝倉先生に対しては、ごく簡単に、当分結婚のことは考えたくない
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
僕はこのところベラン氏の姿を見ないので、さては拘束こうそくされて発狂の三十八人組の中に入っているのに違いないと思った。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それがいやしくも組織の名に値するものであるなら、必ず多少とも拘束こうそくと強制の要素が伴うのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
夢を持てだ、夢を持つことには、誰の拘束こうそくもない。今去った駕かきの子でも、夢を持てる。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ桃井直常が表に監視をおいているにしろ、なんの拘束こうそくでもなかったのだ。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃ君は何故、あの車輌に居た乗客を拘束こうそくして置かなかったのか」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
従って、年々、彼への監視や拘束こうそくは、ゆるやかになってもいた。給仕の女人にょにんとして、女性をおくことも黙認されている。——近頃、ひそやかに奥にかしずいているかめまえは、彼の二度目の愛人だった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「青竜王のいるところが分りました。いま電話局で調べさせたんです。青竜王せんせい、いま竜宮劇場の中から電話を掛けたんです。私は青竜王に一応訊問じんもんするため、職権しょっけんをもって拘束こうそくをいたしますから……」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、伝右衛門は、自分が不法な拘束こうそくをうけるように口どもった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)