にぎ)” の例文
自分のたなごころのなかに彼女の手をにぎめていると、わたくしのこの胸には、それまで想像だもしなかったほどの愉しい気持ちがみなぎって来るのでした。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
その時或る説明しがたい心持で、身構へてにぎつて居た自分の杖をふり上げると、自分の前で何事も知らずに尾を振つてゐる自分の犬を、彼はしたたかに打ち下した。
「右の手に算盤そろばんを持って、左の手に剣をにぎり、うしろの壁に東亜図を掛けて、ふところには刑事人類学を入れて置く、これでなければ不可いかん、」などとしきりに空想を談じていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
道士はそこで一つの梨をとってってしまって、その核を手ににぎり、肩にかけていたすきをおろして、地べたを二三寸の深さに掘り、それをいて土をきせ、市の人たちに向って
種梨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これほど思つた心の一端をもにぎつて示しもしない中に、その小さなやさしい鳩は飛び去つて了つたのではないか。さう思ふとゐても立つてもゐられないやうな気がした。同級生のSが
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
右の手に朱塗しゅにぎりのはさみ持たせられしまま、図らずここに来かかりたまいぬ。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「雑人、鞭を貸せ」覚明が、牛飼の鞭を奪って、百万の魔神もこの輦の前をはばめるものがあれば打ち払っても通らんとおおきな眼をいからすと、性善坊も、八瀬黒の牡牛おうしの手綱を確乎しっかにぎって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)