手頭てさき)” の例文
お勢が笑らいながら「そんなに真面目まじめにおなんなさるとこうるからいい」とくすぐりに懸ッたその手頭てさきを払らい除けて文三が熱気やっきとなり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
縮緬ちりめん小片こぎれで叔母が好奇ものずきに拵えた、蕃椒とうがらしほどの大きさの比翼の枕などがあった。それを見ても叔母の手頭てさきの器用なことが解った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女ながらも一念力! お照は声を便たよりにしっかと仙太の手を執りて、引揚げんとする時、後より這上らんとする男の、必死ともがく手頭てさきにむずと袂を掴まれたり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
あをやつれたる直道が顔は可忌いまはしくも白き色に変じ、声は甲高かんだかに細りて、ひざに置ける手頭てさきしきりに震ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かかすべからずといられてやっと受ける手頭てさきのわけもなくふるえ半ば吸物椀すいものわんの上へしの
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
かれ居去いざりつつ捜寄さぐりよれば、たもとありて手頭てさきに触れぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わななく手頭てさきを引手へ懸けて、胸と共に障子を躍らしながら開けてみれば、お勢は机の前に端坐かしこまッて、一心に壁とにらくら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
裁縫やお琴の稽古けいこでもしていれば、立派に年頃の綺麗きれいな娘で通して行かれる養家の家柄ではあったが、手頭てさきなどの器用に産れついていない彼女は
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「そういうわけじゃないのよお庄ちゃん。」とお増は小さい可愛い手頭てさきに摘んだ巻莨などをふかして
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)