手古舞てこまい)” の例文
お糸さんは手古舞てこまいを見に出かけてしまっていたし、祖父の許には客が来ていた。私はふと父の許に行ってみる気になった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
孫と王とが、漢青年の両脚を抑えつけていると、その噛煙草ずきの医師は、メスを探すやら、ガーゼを絞るやらで、ひとりで手古舞てこまいをしていた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
エライコッチャエライコッチャと雑鬧ざっとうを踊りの群が入り乱れているうちに、頭を眼鏡という髪にゆって、えりに豆絞りの手拭を掛けた手古舞てこまいの女が一人
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
たちまち井戸の周囲が人だかり、押すな押すなで、井戸側からのぞいて見ると、さまで深くない水面にありと見えるのは、まごうべくもない昨晩の手古舞てこまいの姿。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
牡丹屋の亭主の話によると、神輿みこしはもとより、山車だし手古舞てこまい蜘蛛くも拍子舞ひょうしまいなどいう手踊りの舞台まで張り出して、できるだけ盛んにその祭礼を迎えようとしている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芸者の揃いの手古舞てこまい姿。佃島つくだじま漁夫りょうし雲龍うんりゅう半纏はんてん黒股引くろももひき、古式のいなせな姿で金棒かなぼうき佃節を唄いながら練ってくる。挟箱はさみばこかついだ鬢発奴びんはつやっこ梵天帯ぼんてんおび花笠はながさ麻上下あさがみしも、馬に乗った法師武者ほうしむしゃ
日本橋の芸妓たちと一緒に手古舞てこまいに出た、その姿をうみの男の子で、鍛冶屋かじやに奉公にやってあるのを呼んで見物させて、よそながら別れをかわした上、檜物町ひものちょうの、我家の奥蔵の三階へ
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
何だか嬉しくって成らねえこたえね、もし旦那忘れもしない六年あとのお祭で、兼ちゃんが思い切ってずうっと手古舞てこまいになって出た姿が大評判おおひょうばんで、半ちゃんがその時の姿を見て岡惚おかぼれをして
第一句は黒骨牡丹の扇かざした手古舞てこまい姿、第三句の豚を見ない雛妓に、私は「大正」をかんじる。牛は別として豚肉と云ふものの、ハッキリ一般の食料となりだして来た大正年代のことだからである。
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
そこへ、またも全浅間の湯を沸かすようなにぎわいが持込まれたのは、塩市を出た屋台と手古舞てこまいの一隊が、今しもこの浅間の湯へ繰込んだということで、遥かに囃子はやしの音が聞える、木遣きやりの節が聞える。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)