扁平ひらた)” の例文
ようよう一尺ぐらいのものらしく、その尾は女の頸筋にゆるく巻きついて、その扁平ひらたい首は蒲団の上に死んだようにぐたりと垂れていた。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、そこから一段下がったまったくの底には黒い扁平ひらたい、積木をいくつも重ねたようにみえる建物があった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この時は、手の鱗も逆立つまで、しゃっきりと、爪を大きく開ける、と甲のゆらぐばかり力が入って、その手を扁平ひらたく板について、白く乾いた小さな亀の背に掛けた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査もまた大胆であった。一条の綱を力として猶予なくするすると降りて行くと、彼は中腹のやや扁平ひらたい岩石の上に立って、の安行の死骸を発見した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、何だか、気を打ったように言って、先生、扁平ひらたい肩でじて、わっしの方をのぞきましたが
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、幸いに彼の身体には例の毛綱けづなが結び付けてあるので、市郎は岩からちる途端に、早くも綱に取付とりついてずるずると滑りちると、二三げんにして又もや扁平ひらたい岩の上にとまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おもはず突立つゝたつと、出来できかゝつたざうのぞいて、つの扁平ひらたくしたやうな小鼻こばなを、ひいくひいく、……ふツふツはツはツといきいてたのが、とがつたくち仰様のけざまひとつぶるツとふるふと、めんさかさまにしたとおもへ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
第三の石門には、扉のような大きな扁平ひらたい岩が立て掛けてあって、其下そのしたの裂目から蝦蟆ひきがえるのように身をすくめてもぐり込むのである。二人はかくの石門を這い抜けて、更に暗いつめた石室いしむろに入った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)