愛憎あいそ)” の例文
「残念乍ら、相手が無いよ、ガード下の光ちゃんは、とうの昔に愛憎あいそを尽かして居るし、本社の受付嬢にも小当りに当って見たが」
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「なあ、姉ちゃん、どうぞどうぞ、……頼りにするのん姉ちゃんばっかりやさかい、こんな話聞いても愛憎あいそ尽かさんといてエな。」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あれはお互ひに喧嘩をするなり愛憎あいそつかしを言ふなりしてわかれて了ふか、さうでなければ、何だ貴様は! 馬鹿を言ふな
通俗小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「ひどいことをするものだ、男のわしでさえ愛憎あいそがつきた。もし、お岩さん、あんな薄情な男と、何時までいっしょにいねえで、いっそわたしと」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
愛憎あいそを盡かした人々の中に、彼れの兄だけは何處までも彼れの決心を飜へさうとした。今朝も兄はわざ/\彼れの實驗室までやつて來て、色々と話し合つてゐたのだ。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
身請の下談したばなしが始まりましたんで、花里はびっくりいたして一度二度はていよくごまかしておき、斯うなってはう振ってふって振りぬいて、先から愛憎あいそをつかさせるより手段てだてはないと
『ふうム……子息のおん身まで、内蔵助殿には、愛憎あいそがつきたと申されるか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小官吏こやくにんになればああも増長されるものかと乃公も愛憎あいそが尽きてしもうた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ほんとにほんとに、愛憎あいそがつきてしまいますけれど、でも八幡さま、あれでも、あたしにとっては大事な人ですからね、どこにいるのか知りませんけれど、しっかり護ってやって下さいまし。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
愛憎あいそをつかして、サト子は、ぶつぶつひとりごとを言った。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まったく自分ながら愛憎あいその尽きた男だ!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
………夫がどんなにガッカリするかは想像に余りあるが、それよりも、こんなことから夫が雪子に愛憎あいそを尽かすようにならねばよいが。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「女から愛憎あいそ尽かしをすると、下々の者は、もう少しいさぎよい事を申します。殿様、もうお目にはかかりません」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
自分は今日まで一閑斎の恩義に感じて檜垣衆の乞いをしりぞけて来たけれども、しかし昨今の筑摩家の無為無能には愛憎あいそが盡きた。
女性というものの平凡さに、江島屋宗三郎えじまやそうざぶろうは、つくづく愛憎あいそを尽かして居りました。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一時あんなに奥畑に愛憎あいそを尽かしていた手前、自分から縒りが戻ったことを白状するのは極まりが悪いのではなかろうか。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主人岩太郎も、今度はよくよくこの風流な石灯籠に愛憎あいそかした様子です。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そしたら私かて愛憎あいそ尽かすやろいうように考えて待ってる間にあの家のもん買収してこないこないせえいうといた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は彼の精力の減退を歎きながらも、そのために愛憎あいそを尽かすどころか、一層愛情を募らせつつあった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
有体ありていに云うと、私は私の交際下手と語学の才の乏しいのに愛憎あいそを尽かして、そんな機会は一生めぐって来ないものとあきらめを附け、たまに外人団のオペラを見るとか
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妙子に愛憎あいそを尽かされる原因の一つになったので、今度は努めて実意のあるところを示そうとしているのかも知れないが、手元に置いて治療させようなどと云うことも
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と云うのであるが、彼女が心から奥畑に愛憎あいそを尽かすに至ったのも、あの時以来なのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どれも物足りないような気がして断り断りしたものだから、次第に世間が愛憎あいそをつかして話を持って行く者もなくなり、その間に家運が一層衰えて行くと云う状態になった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
愛憎あいそかすことが出来るであろう、と、そう思った末に考えついたのは、あのようなみめうるわしい女であっても、その体から排泄はいせつするものは、われ/\と同じ汚物おぶつであろう
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……なあ、姉ちゃん、なんぼ親しい間柄あいだがらかてこんなこというたら自分の恥やし、愛憎あいそつかされるかも分れへん思てじっと辛抱しんぼしててんけど、もうもう今日は何も彼もいうてしもてんし。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妙子がそう云う健気けなげなことを心がけるに至った裏面には、内々奥畑と云う青年に対する愛憎あいそ尽かしが含まれているのではあるまいか、つまり、奥畑との間は、新聞にまでうたわれた仲であって
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このところほとんど三日置きぐらいに木村さんが来てブランデーが始まり、クルボアジエはすでに二本目がからになり、そのたびごとに私が風呂場で倒れるので、敏子も愛憎あいそが尽きたのであろう。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何よりそれで愛憎あいそを尽かしたように云っていた、と云うのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)