情死しんじゅう)” の例文
まゆ仲買なかがいの男と酌婦しゃくふ情死しんじゅうした話など、聞けば聞くほど平和だと思った村にも辛い悲しいライフがあるのを発見した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
とにかくかね情死しんじゅうをする覚悟でなければやり通せないから——ところがその金と云う奴が曲者くせもので、——今もある実業家の所へ行って聞いて来たんだが
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その結果が恋愛となり自由結婚となりあるいは失恋となり自殺となり、中には最もいやしむべき情死しんじゅうなんぞとなる。よく娘や息子を持った親たちが平気でいられるね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それからまだある。この男と、お前と、情死しんじゅうをした様にして死恥をさらすのだ。どうだ。どうだ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今年は、めた水にたたとしだのう、こないだも工女が二人河へはまって死んだというのに、また、こんなことがある」「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。南無阿弥陀仏」「オイ何だい、情死しんじゅうかね」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なぜでも……。結婚するくらいなら、あたしたち、情死しんじゅうしちゃうかも知れないわね。」
死の前後 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
情死しんじゅうの片残りという不甲斐ない身を、一日も晏如あんじょとしている恥かしさに耐えなくなった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
情死しんじゅうを遂げた男と女がござりましてな、男の方は三十幾つかの年配、女子おなごの方はまだ十七八でござんしょうかな、月夜の晩に、お月見だといって、浜屋の裏堀から舟を乗り出しましてな
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やはりわらのうえからもらわれて、ここの家で育っていた壮佼わかいしゅとできあって、二人で他愛もなくやっているうちに、養女に他から養子をもらうことになりますと、どうも二人で情死しんじゅうをしたらしいですよ
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ねえ、坪井さんと情死しんじゅうしたら、あたしたちのこと、新聞に出るでしょうか。」
死の前後 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
機屋はたやの亭主が女工を片端かたはしからかんして牢屋ろうやに入れられた話もあれば、利根川にのぞんだがけから、越後えちごの女と上州じょうしゅうの男とが情死しんじゅうをしたことなどもある。街道に接して、だるま屋も二三軒はあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一体堀割の土手つづきで、これから八幡はちまん前へ出る蛇のうねった形の一条ひとすじ道ですがね、洲崎すさきへ無理情死しんじゅうでもしに行こうッて奴より外、夜分は人通のない処で、場所柄とはいいながら、その火事にさえ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)