心中しんじゅう)” の例文
どうも小指であんなに力を入れて放さないで、まあ竿と心中しんじゅうしたようなもんだが、それだけ大事にしていたのだから、無理もねえでさあ。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひとりで死ぬつもりか、心中しんじゅうかえ。おい、黙っていちゃあいけねえ。それに因っておまえの罪の重い軽いも決まるのだ。はっきり云ってくれ。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそらく下には何かよほど豊富な獲物があるに相違ないが、それは何だか分らない。しかし、よもや心中しんじゅうでもあるまい。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ええ、うちではかえって人目に立つッて、あの、おほほ、心中しんじゅうの相談をしに来た処だものですから、あはははは。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのくせこの旅先ではこの一夜から急に自殺——心中しんじゅうのことを偏執しはじめた。そしてそれが自然に見えた。
流浪の追憶 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「わたしが愛子の年ごろだったらこの人と心中しんじゅうぐらいしているかもしれませんね。あんな心を持った人でも少しとしを取ると男はあなたみたいになっちまうのね」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
公設展覧会出品の裸体画は絵葉書とする事を禁ぜられ、心中しんじゅう情死の文字ある狂言の外題げだいは劇場に出す事を許さず。当路の有司ゆうし衆庶しゅうしょのこれがために春情を催す事をおもんぱかるが故なり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この頃の或る新聞に、沼南が流連して馴染なじみの女が病気でている枕頭ちんとうにイツマデも附添って手厚く看護したという逸事が載っているが、沼南は心中しんじゅう仕損しそこないまでした遊蕩児ゆうとうじであった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お遊さんの心のおくへ這入はいってみましたら自分で自分にゆいまわしていたらちはずれてしまったような気持のゆるみができまして妹の心中しんじゅうだてを憎もうとしても憎めなんだのでござりましょう。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たとえば男女の心中しんじゅうのごとき、二人が夫婦になるのを理想とするが、不義ふぎの交際は親も許さず世間も認めぬ。この世で晴れて一緒になれぬなら、むしろあの世で蓮華れんげの上にということになる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
心中しんじゅうでも、したら困るけ?……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
心中しんじゅうなどしはしまい)
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法律の力で心中しんじゅうの名を相対死あいたいじにと呼び替えても、人間の情を焼き尽くさない限りは何の防ぎにもならなかった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人殺しでも心中しんじゅうでも、皆一定の公式があって、簡単に無理やりにその型にはめ込んで書いてしまうから
ニュース映画と新聞記事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして木部と別れて以来絶えて味わわなかったこの甘い情緒に自分からほだされおぼれて、心中しんじゅうでもする人のような、恋に身をまかせる心安さにひたりながら小机に突っ伏してしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そしたら、男の心中しんじゅう極印ごくいん打ったも同じ事、喜んだかていのどす。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心中しんじゅう采女塚はそんな事ですっかり執筆の興がせてしまった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
試合じあい音無瀬川おとなせがわ心中しんじゅう
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)