御簾ぎょれん)” の例文
これさえホホ笑ましくお聞きあるのか、御簾ぎょれんのあたりのお叱りもない。そして鶏鳴けいめい早くも、いよいよ都入りのおしたくに忙しかった。
御簾ぎょれんの彼方に誰やらくつの音がした。帝も皇后もはっとお口をとじた。——が、幸いに案じた人ではなかった。伏皇后の父の伏完ふくかんであった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど奥まった行宮あんぐうの深くでは、かえって何かふしぎな活力のような精気が、そこの昼もうすぐらい御簾ぎょれん御灯みあかしにあかあかとかがやいていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また御簾ぎょれんをはさんで居ながれている公卿たちの目も、みな息をためて、正成の容子に、洞察をはたらかせているふうだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あははは、相変らず粗暴な男ではある、此方の口からいいわけはせぬ。二夫人の御簾ぎょれんを拝して、とくと、許都の事情をうけたまわるがよい」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて、こがらしの吹きすさぶ夜は、大岳たいがくの木の葉が、御簾ぎょれんのあたりを打ッて、ともしのささえようすらないのであった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「…………」正成は、そのためちょっと絶句したが、しかし姿勢は御簾ぎょれんを仰いだままで、それへ眸をそらしたわけでもない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、みな色を失い、彼ら衣冠いかんのつつしみぶかい眸も、せつな、こぞって御簾ぎょれんのうちの御気色みけしきへ、思わずうごいたほどである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御簾ぎょれんのうちはひそやかであったが、土御門つちみかど天皇も、彼のそうした真摯しんしな態度にたいして、しきりにうなずかせられていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くお察しになって、冬風のふせぎも粗末な仮御所のきざはしの下、間近まで、正行を召されて、御簾ぎょれんをさえかかげられ
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半里か一里ごとには肩代りしてゆくのだが、道はぬかるむばかりだし、山雨さんうは輿の御簾ぎょれんを打ッて、帝のお膝のあたりも冷たく濡れてきたにちがいない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、雪さえ降るに、御簾ぎょれんの内、あきらけくはなかったが、笛の座につかれたみ姿の線、おのずからな御威容、さすがはと拝せられ、世上、しきりに新帝の英邁えいまい
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……何かは知らぬが、きいてやろうという優渥ゆうあくなお気もちは、充分、御簾ぎょれんのうちからもうかがわれた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梶井ノ二品親王にほんしんのう(光厳の弟)までも、みなお一つにここへ難をのがれ、むかし平家一門が栄えたあとの法領寺殿ほうりょうじでん池殿いけどの、北御所などに御簾ぎょれんを分けておられたのである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝はここの仮御所も、池殿の御簾ぎょれんから公卿溜りまで恟々きょうきょうとおののいていた折も折であったのだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御簾ぎょれんから左右にいながれる臣下の諸卿へそっと向けて、二歩三歩、座のところまで進んできた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて次々つぎつぎから、関白まで、取次がとどく。基通は、またその由を、御簾ぎょれんのうちへ奏聞そうもんした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふかく御簾ぎょれんを垂れて、四条隆資、二条ノ中将為明、中院ノ貞平らが、衣冠おごそかに奉仕ほうじのていを作って、めったに人も近づけずにいたのだが、衆目はいつか、簾中れんちゅうの人物が
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの馬揃えの天覧に、御簾ぎょれんのあたりの月卿雲客げっけいうんかくを驚嘆させ、三十余万の民衆の眼を奪った絢爛けんらんに劣らないはれのいでたちが、この日も、信長とその前後の諸大将旗本をつつんでいた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みずから全土の朝廷軍を御簾ぎょれんの内からうごかすの御意志は元々なかったが、しかし諸将を用いること棋盤きばんの駒のごとく、機略縦横な謀略の才なども、ついには御自身を兵火のうちに投じ
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御簾ぎょれんもあるわけではない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)