御多分ごたぶん)” の例文
僕も今度は御多分ごたぶんれず、焼死した死骸しがい沢山たくさん見た。その沢山の死骸のうち最も記憶に残つてゐるのは、浅草あさくさ仲店なかみせの収容所にあつた病人らしい死骸である。
「ナンダつまらない」その名前倒れを露出むきだしにしながら、とにかくここで第一の旧家といわれる角屋すみやの前に足をとどめてみても、御多分ごたぶんに洩れぬ古くて汚ない構えである。
夫婦ふうふがやつてて、かたどほり各人かくじん紹介せうかいされたがかれ御多分ごたぶんれずおしであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
明治十八年——世にいう鹿鳴館ろくめいかん時代である。上下こぞって西洋心酔となり、何事にも改良熱が充満していた。京枝一座も御多分ごたぶんれず、洋装で椅子いすにかけテーブルにむかって義太夫を語った。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一度の経験でも御多分ごたぶんにはれん。箔屋町はくやちょうの大火事に身代しんだいつぶした旦那は板橋の一つ半でもあおくなるかも知れない。濃尾のうびの震災にかわらの中から掘り出されたぼとけはドンが鳴っても念仏をとなえるだろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
矢張やつぱり御多分ごたぶんにはれぬはうで、あたまからいましづくびた。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)