御回向ごえこう)” の例文
その二絃琴にげんきんの御師匠さんの近所へは寄りついた事がない。今頃は御師匠さん自身が月桂寺さんから軽少な御回向ごえこうを受けているだろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが何と思ったか、不意にたずねて来て、なにぶん御回向ごえこうを頼むと云って五両という金をめずらしく置いて行きました
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もとより覚一に異存はなく、願うてもないよい御回向ごえこうとよろこんで、めしいに見られるものではなかったが
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜は夜どおし御回向ごえこう申しあげようと、御墓の前のたいらな石の上にすわって、お経をしずかによみはじめたが、やがて心にうかんだ一首の和歌をよんでお供えした。
いずれも忠信の者どもにそうろうあいだ御回向ごえこうをもなされくださるべく候。その場に生残り候者ども、さだめて引出され御尋ね御仕置にも仰附おおせつけらるべく、もちろんその段人々にんにん覚悟の事に候。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
言うに言われぬわけあって、夫殺しの咎人とがにんと、死恥しにはじさらす身の因果、ふびんとおぼし一片の、御回向ごえこう願い上げまする、世上の娘御様方は、この駒を見せしめと、親の許さぬいたずらなど
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石の下へお這入りなすったかと存じましたら胸が痛くなりまして、嫌な心持で、又うちへ帰って貴方がたのお顔を見ると、胸がける様な心持、仏間に向って御回向ごえこう致しますると落涙らくるいするばかりで
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたしの身は貴下あなたの手から葬式をして一本の御回向ごえこうを御頼みもうします。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「はい。いつも、泉下の仏にお優しい御回向ごえこうを、陰ながら有難いと伏し拝んでおりました」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御回向ごえこうでもして貰おうと思っていると、その晩の夢にその女が枕もとへ来て、その片袖は北新堀の鍋久へおとどけ下さい、きっとお礼を致しますからと、こう云って消えてしまった。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さあ、どうぞ、これへお越しやして、朝霧の妄執もうしゅうのために一片の御回向ごえこうを致し下さいませ、重清がためにもこの上なき供養となりまするのでござります、いやもう御奇特なことで」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『よろしゅうござる。役目の事故、御回向ごえこういたしませぬ。後々あとあと御懇おねんごろに』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気違いでなくて何じゃ、この、この人でなしは、この家へ入れるべきもんじゃない、皆様、皆様も、こんな人でなしの畜生のために、なに、御回向ごえこうがいろうぞい、おかしいわい、へそがよれるわい」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海に沈みし御一門の尊霊に、よそながら御回向ごえこう申そうか。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それはそれは、ではひとつ、御回向ごえこうを願いましょうか」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)