従順すなお)” の例文
旧字:從順
然し、その理由を是非にも聴こうとする衝動には、可成り悩まされたけれども、杉江はただ従順すなおいらえをしたのみで、離れを出た。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その間音なしく此処で書物ほんを見ているようにと言付けられたから、乃公は従順すなおに書物を読み始めた。空は青い。日はく照っている。家にいるのは勿体ない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お仙は母の言うなりに従順すなおに動いた。最早処女おとめの盛りを思わせる年頃で、背は母よりも高い位であるが、子供の時分に一度わずらったことがあって、それから精神こころの発育が遅れた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やれ従順すなおでないの、態度が傲慢不遜だのと言われていた、謂ゆる利口な生徒や頓智のきく学生が、この旧師の気の毒な境遇を知ると、中にはいろんな必要な持物まで売り払って
それならば騒がずともよいこと、為右衛門そなたがただ従順すなおに取り次ぎさえすれば仔細はのうてあろうものを、さあ十兵衛殿とやら老衲わしについて此方こちへおいで、とんだ気の毒な目にわせました
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
庭の内に高低こうてい参差しんしとした十数本の松は、何れもしのび得るかぎり雪にわんで、最早はらおうか今払おうかと思いがおに枝を揺々ゆらゆらさして居る。素裸すっぱだかになってた落葉木らくようぼくは、従順すなおに雪の積るに任せて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
然し梅子はくこれに堪えて愈々従順すなおに介抱していた。其処そこで倉蔵が
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「だからいつも、従順すなおにしてるが、きょうはいってやるぞ。やいッ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と叱るようにして促がすと、あんな妙なお雛様って——と一端は光子が、邪気あどけなく頬を膨らませてすねてはみたが、案外従順すなおに、連れられるまま祖母の室に赴いた。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こうして種々な手紙が新しい家まで舞込んで来るのは、別に三吉には不思議でもなかった。唯、妻が自己おのれ周囲まわり見過みあやまらないで、従順すなおに働いてくれさえすればそれで可い、こう思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)