徐々しずしず)” の例文
それにも拘らず、盲法師の弁信は自ら手綱をかいくって、徐々しずしずと馬を進めながら、今日は馬上で得意のお喋りをはじめます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて不等辺三角形に折れ曲った一つの空間を作りつつ、福太郎の身体からだを保護するかのように徐々しずしずと地面へ降りて来た。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日の本の東西にただ二つの市の中を、徐々しずしずと拾ったのが、たちまちいなずまのごとく、さっと、照々てらてらとある円柱まるばしらに影を残して、鳥居際からと左へ切れた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十一時頃に至って、秋山男爵と、雲井文彦は各従者一名を従え馬車を駆って、徐々しずしずと入り来った。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
漁史は、手応の案外強きに呆れ、多少危懼せざるに非ざれども、手繰るに従いて、徐々しずしず相近づくにぞ、手を濡らしつつ、風強き日の、十枚紙だこなど手繰る如く、漸く引き寄す。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
そのほかにも随従の者大勢、列を正しく廊下づたいに奥殿へ徐々しずしずと練って行った。
思ひも懸けず後より、「やよ黄金丸しばらく待ちね。それがしいささか思ふ由あり。這奴しゃつが命は今霎時しばし、助け得させよ」ト、声かけつつ、徐々しずしず立出たちいずるものあり。二匹は驚き何者ぞと、月光つきあかりすかし見れば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
庸介はこれらの清らかさ、静けさに酔わされてしばしの間恍惚こうこつとしていた。が、すぐにそのあとからある寂寥が徐々しずしずとして彼に襲いかかって来た。山の頂には、彼一人のほか誰の姿も見られなかった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「孔明の車はあのように急ぎもせず徐々しずしずと行くのに?」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余が耳を傾くると共にお浦は徐々しずしず語り続けた。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
徐々しずしずと引上げて行く態度、ちょうど、名将が戦い利あらずと見て、味方を繰引くりびきに引上げる兵法がこの態度であろうと、兵馬は敵ながら獣ながら
それに介添かいぞえを一人と弓持一人と的持を三人ずつ引具ひきぐして、徐々しずしずと南の隅へ歩み出でたのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といったけれども、何の返答もなく、刀を提げてそろそろと縁を下りて、沓脱くつぬぎの上に並べてあった草履をつっかけると、声をしるべに徐々しずしずと弁信の方へ近寄って参ります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駕籠は、すすき尾花の大見晴らしを徐々しずしずと押分けて進むと、五十丁峠のやや下りになります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古式によそおうた花やかな十六騎が、南の隅に来てハタと歩みを止めた時に、馬場本ばばもとに設けられた記録所から、赤の直垂をつけて太刀をき、立烏帽子にくつを穿いた侍が一人、徐々しずしずと歩んで出て来ました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人の盲人は、こうして徐々しずしずと屋敷を出て行きました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二階から徐々しずしずと炉辺をさして下りて行きます。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)