後幕うしろまく)” の例文
それも多くの人目をあつめたに違いなかったが、はつ真打綾之助に贈られた高座の後幕うしろまくは、とうてい張りきれぬほどの数であったので、幾枚も幾枚も振りおとして掛けかえた。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もう少し早く判っていると、後幕うしろまくのぼりでも何するんでしたけれど、今夜が初日じゃあもう間に合いません。せめてハイカラに花環のようなものでも贈ることにしましょうよ。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まだわかくって見番の札を引いたが、うち抱妓かかえで人に知られた、梅次というのに、何かもよおしのあった節、贔屓ひいきの贈った後幕うしろまくが、染返しの掻巻かいまきにもならないで、長持の底に残ったのを
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勝久は看板を懸けてから四年目、明治十年四月三日に、両国中村楼で名弘なびろめの大浚おおざらいを催した。浚場さらいば間口まぐちの天幕は深川の五本松門弟じゅう後幕うしろまく魚河岸問屋うおがしどいや今和いまわと緑町門弟中、水引みずひきは牧野家であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
後見役こうけんやくには師匠筋の太夫、三味線きがそろって、御簾みすが上るたびに後幕うしろまくが代る、見台けんだいには金紋が輝く、湯呑ゆのみが取りかわる。着附きつけにも肩衣かたぎぬにもぜいを尽して、一段ごとに喝采かっさいを催促した。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
磨出みがきだしたい月夜に、こまの手綱を切放きりはなされたように飛出とびだして行った時は、もうデロレンの高座は、消えたか、と跡もなく、後幕うしろまく一重ひとえ引いた、あたりの土塀の破目われめへ、白々しろじろと月が射した。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)