廻縁まわりえん)” の例文
途中で見た上阪のぼりざかの中途に、ばりばりと月にてた廻縁まわりえん総硝子そうがらす紅色べにいろの屋号の電燈が怪しき流星のごとき光を放つ。峰から見透みとおしに高い四階は落着かない。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このくつぬぎ石は廻縁まわりえんから庭へ出る時何時も踏んづけたものだった。丸坊主になった松の枝ぶりにもくずれた土蔵の面影にも見おぼえがある。ああ、この石燈籠だけは昔のままだ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
案内されて廻縁まわりえんからはいって来た客人——年頃は主じとあまり違わぬ三十何歳、細いまげをすずしく結って、伊達だて好みの茶壁の着付、はかまはわざと穿かずに、無紋紺地の短か羽織を軽く羽織って
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
振返って、一睨ひとにらみ。杜若かきつばたの色も、青い虫ほどに小さくなった、小高い道に、小川が一条ひとすじ流れる。板の橋がかかった石段の上に、廻縁まわりえんのきれいなのが高く見えた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十畳と八畳に、廻縁まわりえんを取廻して、おおきの字形に、襖を払った、会場の広間は、蓮の田に葉を重ねたように一面で、暗夜やみに葉うらの白くほのめくのは浴衣ゆかたである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
坊さんまじりその人数にんずで。これが向うの曲角から、突当りのはばかりへ、廻縁まわりえんになっています。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蚊帳は広い、おおきいのです。廻縁まわりえんの角座敷の十五畳一杯に釣って、四五ヶ所つりを取ってまだずるり——と中だるみがして、三つ敷いたとこの上へおおいかかって、縁へ裾がこぼれている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
及腰およびごしながら差覗さしのぞくと、廻縁まわりえんの板戸は、三方とも一二枚ずつとざしてない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっと一面に青く澄んで、それが裏座敷の廻縁まわりえんの総欄干へ、ひたひたとすだれを流すように見えましてね、縁側へ雪のような波の裾が、すっと柔かに、月もないのに光を誘って、遥かの沖から、一よせ
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとは辻堂のような、ぐるりとある廻縁まわりえん、残らず雨戸が繰ってあった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)