幼穉ようち)” の例文
なぜなら、知の働きも無想の前には幼穉ようちさを示したに過ぎないからです。またはあらゆる作為の腐心をしてつたなからしめる自然さの力を。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
其他演劇博物館にある石膏せっこうの首は幼穉ようちで話にならない。ラグーザの作というのはまだ見ないでいる。団十郎は決して力まない。力まないで大きい。
九代目団十郎の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
この句もとより幼穉ようちなりといへども、しかも三日月を捻出ねんしゅつしかつ一気呵成かせいにものしたる処、はるかに蒼虬の上にあり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
父母たるものは、その幼穉ようちにして感得の力もっともさかんなるときにあたり、これをおしゆる、造次ぞうじも必ずここにおいてし、顛沛てんぱいも必ずここにおいてするを
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
或る一少女を作りあげた上に、このずるい作者はいろいろな人間をとらえて来て面接させたという幼穉ようちな小細工なのだ、これ以上に正直な答えは私には出来ない。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
木道具や窓のがんが茶色にくすんで見えるのに、幼穉ようちな現代式が施してあるので、異様な感じがする。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
初めは何人なんぴといえども甘いものを好み、ようやく成長するに及んでは、砂糖の多い物即ち美味なりとするが如き幼穉ようちの境を蝉脱せんだつして、甘味即美味の妄なるを不知不識の間に会得し
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この点近代人が、木版、手摺の昔の出版界時代を幼穉ようちに感ずるのも無理がありません。
書を愛して書を持たず (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし我が国民は権利に関する観念がすこぶ幼穉ようちで、選挙に対しても一向重きを置かず、初めはこれらの機関——府県地方の意思を代表するこれらの機関に対して比較的冷淡であった。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
独りで煩悶はんもんするか。そして発狂するか。額を石壁にち附けるように、人に向かって説くか。救世軍の伝道者のようにつじに立って叫ぶか。馬鹿な。己は幼穉ようちだ。己にはなんの修養もない。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もっとも此支那料理、西洋料理も或る食通と云う人のように、何屋の何で無くてはならぬと云う程に、味覚が発達しては居ない。幼穉ようちな味覚で、油っこい物を好くと云うだけである。酒は飲まぬ。
もし自分一人の力で何もかもしなければならないとしたら、どんな人も極めて幼穉ようちな生活より出来ないでありましょう。否、生きてゆく力さえないでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
寛文に至りて変ぜんとしていまだ変ぜざる俳諧は、延宝に至りてやや変動し初めたり。西山宗因は起つて談林派を唱へたり。ここにおいて貞徳時代の幼穉ようちなる俳諧は全くその跡を絶ちぬ。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
し選挙権を拡張し選挙区制を改めても、国民に政治思想が乏しくおおやけに対する道徳幼穉ようちなれば、同じく諸種の弊害をかもすのである。これに対しては当局者もまたその責を分たねばならぬ。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
人の幼穉ようちなるとき、意を加えてこれを保護せざれば、必ずみ、必ず死す。また心を用いてこれを教育せざれば、長ずるにおよびて必ずがん、必ずにして、蛮夷の間といえども共にたつべからざるに至る。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
雑器であったためこれらのものは長く棄てられてきたが、近時その美的価値がやかましくいわれ、蒐集しゅうしゅうする者が甚だふえた。誠に技巧から見れば幼穉ようちなものといえよう。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
作り方には長足の進歩がありますが、作られる品にはむしろ退歩が目立つのは大きな矛盾といわねばなりません。なぜ幼穉ようちだと笑われている手機や草木染くさきぞめの方が実着なものを生むのでしょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)