山窩さんか)” の例文
切支丹きりしたんが日本に這入って来るのと同じ頃に伝わって来て、九州地方の山窩さんかとか、××とか、いうものの中に行われておったという話じゃ
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甲州や相州の山奥には山窩さんかというものの一種があって、その仲間に引渡された時は、生涯世間へ出ることはできないということ
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そういえば、乞食だとか山窩さんかなどがおたがいに通信する符号には、こんな子供のいたずら書きみたいなのが色々あった様ですね」
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは後に申す山人やまびとと合せ考うべきものかもしれませぬが、近ごろでは普通に新聞などに「山窩さんか」と書いております。穴住まいをするという事かもしれません。
山窩さんかと云われていたそうですが、——山窩、山窩と馬鹿にされ、世間の人から迫害され、浮世の裏ばかり歩くより、いっそ一つに塊まって、山窩の国を建てた方がいいとね。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なに、ここらは比較的にひまな方です。土地の人気じんきが一体におだやかですから、盗伐などという問題もめったに起こりません。ただ時々に山窩さんかが桐の木を盗むぐらいのことです。」
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この山には、日本のジプシー、山窩さんかはゐなかつたか、彼等は鮎を何で釣るか。
山窩さんかのようなむざんなようすをした男たちの口から、そんな言葉がとびだすのが、だいいち、いぶかしいきわみだった。おもざしはいちいちちがうのに、なぜかひとつの顔のような印象をあたえる。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこが、野三昧のざんまいの跡とも、山窩さんかが甘い水を慕って出て来るともいう。人の灰やら、犬の骨やら、いずれ不気味なその部落を隔てた処に、かすかにその松原が黒く乱れてふくろが鳴いているお茶屋だった。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の山窩さんか、海の抜荷屋ぬきや、どっちもどっちのしろものだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はふと魔がさして、山窩さんかの様な浮浪の男と一夜を共にし、あの恐ろしい片輪娘を生みおとしたのであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしながら、この一団の火光は、お銀様を喜ばす目的地方面の火ではなく、怖るべき山窩さんかの一団の野営ではないか。お銀様は、そんなことを一向に知りません。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五百人の杣夫そまをはじめとし、それを監督する百五十人の武士、その連中に春をひさぐ、三四十人の私娼の群、どこにいるとも解らないが、兇暴の強盗や殺人をする、数百人の山窩さんかの団隊
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
残る家族のためぞと思い。人を諦らめ世を諦らめて。流す涙が乞食の姿じゃ。三日続けば止められないと。聞いた気楽な世界に落ち込む。それがそこらの名物乞食じゃ。又は野臥のぶせ山窩さんかにまじって。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それについて思い出すのは、昨日の日に箕直みなおしが来て、妙にジロジロわたしの面をながめて、いやな笑い方をして出て行きましたが、あれは山窩さんかの者かも知れません」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同時にひらめいたのは……閃めかなければならないのは、過ぐる夜のことで、山窩さんかのものだという悪漢が二人、この寺に押込んで、泊り合わせた兵馬のために傷つけられて逃げた
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なお充分に合点がてんのゆかぬことは、その一団が立派な衣裳道具を持ち、上品な言葉づかいをしていたということで、一般の山窩さんかは、もっと野蛮で、もっと兇悪な分子を持っているはず
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
全国の山から山を旅して渡り歩く山窩さんかというものであろうことを教え、なお山窩というもののいわれを一通り説いた上で、とにかくもその手から逃れたことを、お銀様のために祝いました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)