大胡坐おほあぐら)” の例文
お町は一寸も引きさうにありません、——それどころか、長火鉢の向うへ、女だてらに大胡坐おほあぐらをかくと、お樂の手から猪口ちよくをむしり取ります。
その、はじめてみせをあけたとほりの地久庵ちきうあん蒸籠せいろうをつる/\とたひらげて、「やつと蕎麥そばにありついた。」と、うまさうに、大胡坐おほあぐらいて、またんだ。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
源太はゑみを含みながら、さあ十兵衞此所へ来て呉れ、関ふことは無い大胡坐おほあぐらで楽に居て呉れ、とおづ/\し居るを無理に坐にゑ、やがて膳部も具備そなはりし後
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
店には誰れもゐないで、大きな眞鍮の火鉢が、人々の手摺れで磨きあげられたやうに、ふちのところをピカ/\光らして、人間ならば大胡坐おほあぐらをかいたといふ風に、ドツシリと疊を凹ましてゐる。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
八五郎は相變らずのお先煙草、大して極りも惡がらずに、縁側の上に大胡坐おほあぐらをかいて、平次の作業を眺めて居るのでした。
うるしなかまなこかゞやく、顏面がんめんすべひげなるが、兩腿りやうもゝしたむくぢやら、はりせんぼん大胡坐おほあぐらで、蒋生しやうせいをくわつとにらむ、と黒髯くろひげあかほのほらして、「何奴どいつだ。」と怒鳴どなるのが、ぐわんとひゞいた。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
錢形の平次は、椽側の日向ひなたに座布團を持出して、その上に大胡坐おほあぐらをかくと、女房のお靜は後ろに廻つて、片襷かただすきをしたまゝ、月代さかやきつて居りました。
よく肥つて、脂ぎつて、鼻が大胡坐おほあぐらをかいてゐる五十二三の眞つ黒な男ですが、調子が卑下慢ひげまんで、妙に拔け目がなささうで、申分なく用人摺れがして居さうです。
入口の二疊に大胡坐おほあぐらをかくと、肌おしひろげて、一刀をわれとわが腹に突つ立てゝ居たのでした。
「自害をしたもの——ことに喉笛を切つたものは、後ろへ反るものですが、これは女だてらに大胡坐おほあぐらをかいた形になつて、俯向うつむけになつてますね——をさめさんはそんなたしなみの惡い人ぢやなかつた筈で」
鐵は土間に大胡坐おほあぐらをかいて、精一杯の啖呵たんかを切るのです。