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大向
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おほむかう
梯子段の二三段を
一躍びに
駈上つて
人込みの中に
割込むと、
床板の
斜になつた低い
屋根裏の
大向は大きな船の底へでも
下りたやうな
心持。
従つて
寄席の客の大半は労働者で帽や
白襯衣を着ない
連中が多く、
大向から舞台の歌に合せて口笛を吹いたり
足踏をしたりする仲間もあつた。演じた物には道化た
踊や
流行唄や曲芸などが多かつた。
先刻から三人四人と絶えず
上つて来る見物人で
大向はかなり
雑沓して来た。
前の
幕から
居残つてゐる
連中には待ちくたびれて手を
鳴すものもある。
拍子木がチヨン/\と
二ツ鳴つた。
幕開の
唄と
三味線が
聞え引かれた
幕が
次第に
細かく早める
拍子木の
律につれて
片寄せられて
行く。
大向から早くも役者の名をよぶ
掛け声。