城廓じょうかく)” の例文
「ここにおられる、小幡民部こばたみんぶどのが、苦心してうつされたもの。すなわち、自然の山を城廓じょうかくとして、七陣の兵法をしいてあるものじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方の端に何となく城廓じょうかくを思わせる様な大きな屋根があって、その側に白く光っているのが、問題の諸戸屋敷の土蔵らしかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なにしろ、一夜明けると、城廓じょうかくのような大建築物が地上から完全に姿を消してしまったのだから、驚くのも無理はない。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けれどもここの旧家山田やまだ氏というのは、堂々たる邸宅を構え、白壁の長屋門、黒塗りの土蔵、遠くから望むと、さながら城廓じょうかくの如くに見えるのであった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
城廓じょうかくのようにそびえた建築物と建築物の間には積重ねた煉瓦れんがの断面のあらわれたのが高く望まれるように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
親類の人が時々来ては見て行きはしますけれども、小さな城廓じょうかくほどもある屋敷を、ともかく、これだけに手入れをしているのは、与八の働きといわねばなりません。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小さいながらも、彼女の城廓じょうかくがあった。ことに盲目的に、彼女をまもっている勝彦とう番兵もあった。が、葉山には、何もなかった。彼女は赤手にして、敵と渡り合わねばならなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は犬にえられながら、昔住んでいた家の回りにたたずんでいましたが、ふと眼を放った向うの坂上に、昔ながらの石垣の上に、厳然と城廓じょうかくのようにそびえ立っている、棚田の家を見ると
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかるにこの山の中腹に一座の城廓じょうかくが聳えていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それからおしてもここはかなりの高地にちがいないが、この山そのものがあたかも天然てんねんの一城廓じょうかくをなして、どこかに人工のあとがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩瀬邸はいまや小さい城廓じょうかくであった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
急築粗造ではあるが、城廓じょうかく様式の形は備えているので、この大岩山のそれも一つの城といってさしつかえない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから程経て、彼女の美しい死骸は、城廓じょうかくの東の丘に発見された。良人元祐の首を前に置き、一枝の花を供えて、そのまえで見事に自害していたのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、這うが如く、なお断崖のへりまで行くと、眼の下の盆地に、忽然こつぜんと、あきらかな城廓じょうかくが望まれた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、城廓じょうかくの儀ではありません。——近年、御定住と聞く安芸国あきのくにで、安国寺という伽藍がらんを」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『されば親代々、お扶持ふちたまわって、ここに住居しておる曾我部兵庫。小さくとも、貧しくとも、侍の家は一城廓じょうかくです。誰のゆるしを受けてこの門内へ、踏み込もうと召されるか』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「博学な貴公なれば、御存じかも知れぬが、現在、日本中の数ある城廓じょうかくのうちで、天守閣てんしゅかくというものを築いておる城は、幾つありましょうか。また、どことどこの城がそれを備えておりましょうや」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、城廓じょうかくのはずれまで行って、北のほうを、眺めていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(安土の城廓じょうかくは、外見だけはあらましできたようなものの、実体内容までの完成には、すくなくもまだ二年半はかかる。あれが完成しては、もはや越後と京都の道はないといっていい。討つならいまが絶好の機)
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)