ひつじさる)” の例文
日は此屋敷からは、稍ひつじさるによつた山の端に沈むのである。西空の棚雲の紫に輝く上で、落日は俄かにくるめき出した。その速さ。雲は炎になつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
さいはひ美吉屋みよしやの家には、ひつじさるすみ離座敷はなれざしきがある。周囲まはり小庭こにはになつてゐて、母屋おもやとの間には、小さい戸口の附いた板塀いたべいがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さて堂のひつじさるの桂木にのぼりて、我不愛身命但惜無上道と誦して、谷へ身を投げければ、護法袖を広げて受取りて、露塵異かりけりと、此事一定を知らず。
ええと夫れから九八の間取、九は艮で金気を含み、八はひつじさるで土性とあるから、和合の相を現している。主屋と離なれ別棟があり、白虎造りを為している。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いま通り過ぎて来た音羽おとわの護国寺からひつじさるの方角に当たる清土きよづちという場処で、そこへ行くと、今でも草むらの中に小さなほこらがあって、はじめはここにまつってあった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あの声がほととぎすか」と羽団扇をててこれも椽側えんがわい出す。見上げる軒端のきばを斜めに黒い雨が顔にあたる。脚気を気にする男は、指を立ててひつじさるかたをさして「あちらだ」と云う。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日は、此屋敷からは、ややひつじさるによった遠い山の端に沈むのである。西空の棚雲の紫に輝く上で、落日はにわかにくるめき出した。その速さ。雲は炎になった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ひつじさるひらいてゐる城の大手おほては土井の持口もちくちである。詰所つめしよは門内の北にある。門前にはさくひ、竹束たけたばを立て、土俵を築き上げて、大筒おほづゝ二門をゑ、別に予備筒よびづゝ二門が置いてある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
即ち東南には運気を起し、西北には黄金のいしずえを据える。……真南に流水真西に砂道。……高名栄誉に達するの姿だ。……ひつじさるたつみに竹林家を守り、いぬいうしとらに岡山屋敷に備う。これ陰陽和合の証だ。
鵞湖仙人 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)