国者くにもの)” の例文
おや! こいつあ何国どこの人間だろう? お国者くにものかな? 一つ探りを入れてやれ、と言ったくらいの外交的言辞に過ぎないのだ。
悪ふざけの国者くにものの声と、拗音ようおんにして、上声じょうしょうの多い土地なまりとが、四方あたりかまわず、ふざけさわいでいるのが、いたく道庵の感触にさわっているらしい。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は、国者くにものという、——何という哀れな、せせこましい、けちくさいことだろう、——理由で、船長のところへ、日ごろのちょうたのんで出かけて行った。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その男は手織縞の綿入れを着て、脚絆、草鞋という扮装いでたちで、手には菅笠を持っている。年のころは三十前後、どこかの国者くにものであることはひと目に判ります。
權「はい、だがね国者くにものに逢って懐かしいからね、少し先へ往っておくんなせえ、直ぐに往くと殿様に然う申しておくんなせえ、まおめえ達者でい、何処どこにいるだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ばば殿のことばと、なまりもよく似ていたから、国者くにものじゃねえかと思ったが。……じゃあ、お寝み」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日の台東区浅草千束町せんぞくまちから吉原への田圃のことだから、古川柳の所謂「国者くにものに屋根を教へる中田圃」で、その栄之丞の住居の彼方には、青田越しにいま阿波太夫があとにして来た吉原の
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
「そりやあなた、お国者くにものはみんな帰つてしまふでせう。——」
「おかんは日光、重吉は宇都宮、おなじ国者くにものだな。女は二十三、男は二十一。よし、わかった。おれも一緒に行く。すぐにその女を番屋へ連れて来てくれ」
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同じ国者くにもの、わけてお父上無二斎殿の御親友もここにはおるので、よかろうではないかと、ただ今、評議したのでござるが、ご迷惑は察し入るが、その方の席へでも、お越し下さるまいか。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... そりやアなんともへないすご怪談くわいだんがある」「へー、それはどうすぢです」「くはしい事は知らないが、なんでも初代しよだい多助たすけといふ人は上州じやうしうはうから出てた人で、同じ国者くにもの多助たすけ便たよつてて、 ...
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
国者くにもの同士が江戸で落ち合って、それから何かの関係が出来る。そんなことは一向めずらしくないと彼も思った。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相当に道楽もした奴らだとみえて、茶代の置きっ振りも悪く無し、女を相手に鰯や鯨の話をしているほどの国者くにものでも無し、実はお吉なんぞはその色の小白い方に少しぽうと来ているらしいんで……。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)