困厄こんやく)” の例文
かの夫妻未だ左したる困厄こんやくにはおちいらねど、思はしからぬが苦情の元なれば、時として夫婦顔を赤めるなどの事もありしとぞ。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
もしそれその生涯の困厄こんやくなるに至りては、彼れ此れより甚しきものあり。マヂニーが死刑を宣告せられたる、実に三回とす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
老いたる祖母は浦賀で困厄こんやくの間に歿した。それでも跡に母と妻と子とがある。自己をあわせて四人の口を、かくの如き手段でのりしなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただこのままになが膝下しっかせしめ給え、学校より得る収入はことごとく食費としてささまいらせいささ困厄こんやくの万一を補わんと、心より申しでけるに、父母も動かしがたしと見てか
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「がし叔母が慈母おふくろのようにおれの心を噛分かみわけてくれたら、若し叔母が心をやわらげて共に困厄こんやくに安んずる事が出来たら、おれほど世に幸福な者は有るまいに」ト思ッて文三屡々しばしば嘆息した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なんゆへに、婬賣いんばい女につみおこな資本しほんりながら、香水料こうすいりよう慈惠じけいせしや、なんゆへ少娘むすめ困厄こんやくせしめし惡漢あくかんをうちひしぐなどの正義せいぎありて、しかしておのみづかひところすほどの惡事あくじせしや
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)