おうし)” の例文
雪駄直せったなおしだか、おうしだか、何だか分らない。……聞えたばかり。無論、私を呼んだと思わないから、構わずこうとすると
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれどもおうしに変らない僕はこの時もやはりいつもの通り、ただ二人の顔色を見比べているより外はなかった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
王はおごそかなる声にて「何者ぞ」と問う。櫂の手を休めたる老人はおうしの如く口を開かぬ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
盲目めしひ弾き、おうし聾者ろうじやつぶかさなりのぞく。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私をおぶった男は、村を離れ、川を越して、はるか鈴見すずみの橋のたもと差置さしおいて帰りましたが、この男はおうしと見えて、長いみちに一言も物を言やしません。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おうしとぞなる。そのときにひとつの硝子がらす
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それは深切に好くしておやんなすった。そうして何とか言いましたかい。「あれはおうしじゃないかと思われます。何を言っても聞えぬようすでございます。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狐床の火の玉小僧、馬琴の所謂いわゆる、きはだをめたるおうしのごとく、喟然きぜんとして不言ものいわず。ちょうど車夫が唐縮緬の風呂敷包を持って来たから、黙って引手繰るように取った。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そう、気違いかい。私はまたおうしででもあろうかと思った、立派な若い人が気の毒な。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)