のろ)” の例文
したがって彼らが戦後の諸事諸相をのろい戦時の遺制に最大の愛着をもつのは当然の話であろう。特に天皇制こそは彼らにとって至上のものであろう。
「悪党よ、のろわれておれ! ……ああ俺は一文なしだ。俺はみんな献金してしまった。どこへ行こうにも行かれない」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人をのろうことについて趣味のある醤買石しょうかいせきと、彼にうまくかつがれているとは知らぬ王老師おうろうしとは、医師の手当てあて甲斐かいあって間もなく前後して、目を覚ました。
この手紙の事情を解し得た時、義雄はマオカの旅館でむかむかッとのぼせあがり、友人並にお鳥をのろつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
女御の怒りは、日増しにつのって行って、まるでのろい殺された様な風に死んでゆく。其後源氏にとっても又、右大臣家の人々は非常につれないものになって行くのである。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
こうと知ったら、定めし白髪しらが引挘ひきむしって、頭を壁へ打付けて、おれを産んだ日を悪日あくびのろって、人の子を苦しめに、戦争なんぞを発明した此世界をさぞののしこッたろうなア!
摩利支天の祠にもうずるに先立ちて、その太さ三拱みかかえにも余りぬべき一本杉の前を過ぐる時、ふと今の世にも「うし時詣ときまいり」なるものありて、怨ある男をのろう嫉妬深き婦人等の、此処に詣で
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
英雄豪傑をのろふ者は其国家を咒ふ者なり。
警戒すべき日本 (新字旧仮名) / 押川春浪(著)
かののろひ、この愁ひ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
のろいによって充たされているだけである。梅村亮作の恥辱まみれの一生は、彼ひとりでしめくくるのが当然であった。
水鳥亭 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「悪い名だ! 悪い名を聞いた!」その声は凄く甲高かんだかのろうような声であった。「おお、おお、土屋庄三郎! 我が子よ! いやいやあいつの子だ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
而も連日召されることは勿論、一日の中にも幾度か召される。其都度女の人たちの嫉妬心しっとしん刺戟しげきして、皆から憎まれ、殊に其中の二人三人の女性ののろいを受けたらしくて、病死してしまう。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なぜか、その人をのろったような挙動しぐさが、無体にしゃくに障ったろう。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
修吉は、然し、この陰鬱な沼ののろひを忽ち忘れてゐたのであつた。生き/\と残るものはただ花やかな記憶のみ。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼らは議論し、やっつけ合い、のろいの言葉を浴びせ合った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
谷村はのろひつゝ素子の情慾に惹かれざるを得なかつた。憎みつつその魅力に惑ふわが身を悲しと思つた。谷村は自らすゝんで素子に挑み、身をすてゝ情慾に惑乱した。
女体 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「人をのろわば穴二つ、いい気味だ、ざまア見ろ」
草吉は全てを憎みのろふやうに、また、切に軽蔑するもののやうに、心に荒々しく叫んだりした。
蒼茫夢 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
のろう! 私は、その男を咒う!)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
オレのようなカンシャク持ちが、オレの耳を斬り落した女をのろわないとは奇妙なことだ。オレは誰かに耳を斬り落されたことは考えても、斬り落したのがこの女だと考えたことはめッたにない。
夜長姫と耳男 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼は自分の本質が低俗な世間なみにすぎないことをのろい憤るのみだった。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
先生は大学生をのろった。先生は栄養失調の気味であったが、教室で見る大学生はみんなマルマルとして血色がよく、年中タバコをすっていた。先生は一ヶ月の何日もタバコに有りついていないのだ。
遺恨 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
森の魔女がのろいをかけるような穏やかならぬ文句をのべたてて
肝臓先生 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼は内気をのろっていた。
握った手 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「この吊り下げた足もとのところへ脂汗がタラリ/\と落ちるものだ。脂汗といふ奴は普通の汗と違つて粘り気があるから、崩れて流れずに一寸ぐらゐの山の形につもるものだぜ」秋水の説明が小僧の頭に悪魔ののろひの声のやうに残つてゐる。
朴水の婚礼 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)