咒文じゅもん)” の例文
と、淵辺の血走ッた眼は咒文じゅもんのように呟いた。何かがり移ったもののごとく、両の膝がしらで、ジリジリ前へすすみ出ながら。
で法王がその履を穿くとご病気が起ったとかいうのでだんだん詮議せんぎの末その履の中を調べて見ると、ポン教の咒文じゅもんが入って居ったという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
堅紙の表紙に父の「お家流」の見出しが敦厚な書体で書いてあるのが、見る毎に何かの咒文じゅもんのように私の目に映った。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかし彼は咒文じゅもんでもかけられたように、たじろいていた。彼は極度の好奇心に呆然としていたのだ。
教授の手にある講義のノートに手垢てあかまるというのは名誉なことじゃない。クラーク、クラークとこの学校の創立者の名を咒文じゅもんのようにとなえるのが名誉なことじゃない。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口のうち咒文じゅもんを唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るようにまたがりました。すると不思議ではありませんか。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「わたくしは一種の咒文じゅもんを知っていまして、それを念じると能く異鳥に化けることが出来ますので、夜のふけるのを待って飛び出して、すでに数百人の子供の脳を食いました」
鍋だの釜だの味噌だの米だのみんな二百円の咒文じゅもんを負い、二百円の咒文にかれた子供が生まれ、女がまるで手先のように咒文に憑かれた鬼と化して日々ブツブツ呟いている。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
日本では、この単語は、どんな人間でも抹殺しうる無限の力をもった咒文じゅもんになっている。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
だから、ある時は、修験者のかける大きなつぶの数珠じゅずを首からかけて、みけんへ深い立皺たてじわをよせて真言しんごん秘密、九字の咒文じゅもんをきっていることもある。あたしの父が、悪太郎の時分からの知りあいだ。
それから軽く瞑目めいもくし、咒文じゅもんを唱え印を結んだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
以前の彼は、六波羅の猟犬だったが、兵学者時親に飼われてからは、予言者の咒文じゅもんに指さされた人間のように、くるりと宮方へ転身してしまったのである。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜陰やいん森中もりなかに、鬼火おにびの燃えるかなえの中に熱湯ねっとうをたぎらせて、宗盛むねもりに似せてつくったわら人形をました。悪僧らはあらゆる悪鬼の名を呼んで、咒文じゅもんを唱えつつかなえのまわりをまわりました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
と、咒文じゅもんを唱えながら、一心不乱にセンベイをひっくりかえして焼いている。
摩利信乃法師は夢のさめたように、慌しくこちらを振り向きますと、急に片手を高く挙げて、怪しい九字くじを切りながら、何か咒文じゅもんのようなものを口の内に繰返して、匀々そうそう歩きはじめました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一人あるいは二人の従者を引き連れて、そうしてその寂寥せきりょうなる山間の道場に入って秘密の法則でもって防霰弾を沢山に製造して、一種の咒文じゅもんを唱え、その一つ一つに咒文を含ませて置くんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ということばは、初めは雲の上の咒文じゅもんのごとく、また、ごく一部の幕府主脳の秘語としてしかささやかれていなかったが、正中ノ変このかた、表沙汰となり、今日では、たれの口にもつかわれている。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、更に一言、咒文じゅもんの様につけたした。
彼は又、咒文じゅもんをとなえた。
肝臓先生 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)