半跏はんか)” の例文
観音に似た女性的な柔和な相をし、半跏はんかして、右手で軽く頬杖をついて静思とも安息ともうけとれるやうな姿をしたあの像である。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
清子のぼだい寺である以上、清子の地蔵信仰につながるあかしが何かなければならないがと思っていたら、はたして、木彫の半跏はんか地蔵像が本堂わきにあった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれつめたい火鉢ひばちはひなかほそ線香せんかうくゆらして、をしへられたとほ坐蒲團ざぶとんうへ半跏はんかんだ。ひるのうちは左迄さまでとはおもはなかつたへやが、ちてからきふさむくなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まだ灰色の薄明がようやくひろがり始めた時分、若い武士は既に起きて、洞窟の入口に近く静坐していた……骨太のたくましい足を半跏はんかに組み、両手の指を組合せて軽く下腹に当て
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同金銅釈迦しゃか三尊像や、所謂百済観音くだらかんのん像や、夢殿の救世くせ観世音菩薩像、中宮寺の如意輪観音と称する半跏はんか像の如き一聯いちれんの神品は、ことごとく皆日本美の淵源としての性質を備えている。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
室の中央には法隆寺の小さい金銅観音こんどうかんのんが、奇妙な微笑を口元に浮かべつつ、台上のところどころにたたずんでいる。岡寺の観音は半跏はんかの膝に肱をついて、夢みるごとき、和やかな瞑想にふける。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
中宮寺の如意輪観音は、実は弥勒菩薩みろくぼさつであろうという説を読んだことがある。その有力な根拠として、たとえば野中寺やちゅうじの同じ形式の半跏はんか像に「奉弥勒菩薩也」と銘記されていることが指摘されている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼は冷たい火鉢ひばちの灰の中に細い線香をくゆらして、教えられた通り座蒲団ざぶとんの上に半跏はんかを組んだ。昼のうちはさまでとは思わなかったへやが、日が落ちてから急に寒くなった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)